翌日、であっているのかわからないけれど、目を覚ますと僕の怪我は完治していた。
その証拠というわけじゃないけれど、斬られて血まみれになっていた上半身は綺麗になっている。
毛布を退かして体を起こすと隣で小さな吐息を漏らしながら寝ている瀬戸さんがいた。

「彼女に感謝するんだな」
「え?」

部屋の隅で丸くなっていた新城が体を起こす。

「負傷したお前をソイツが治療術で癒した。本来なら二日かかるところをまさか半日足らずで治すとは……本当に恐ろしい素質、いや、血筋かねぇ?」
「血筋?」

首を傾げる僕に新城が説明してくれる。

「瀬戸ユウリは失われた陰陽師の血筋を引いている。コイツがその気になろうとならなくとも怪異に関われば、色々なところに狙われるだろう」
「狙われるって、どうして……」

戸惑う僕の前で新城はため息を零す。

「どうして、祓い屋や退魔師がいるのに、陰陽師がいないかわかるか?」
「確か、全滅したんだっけ?」

新城に陰陽師について尋ねた時にそんなことを言っていたような気がする。

「表向きの理由はそれだ。実際は違う」
「違う?」
「陰陽師が扱う術、その全てがある時代を境に失われた」
「失われた?どういうこと?」

僕から視線をそらして新城は窓からみえる景色をみる。

「さぁな、切欠も原因も何もわかっていない。一部の者達は失われた歴史といって、今も消えてしまった術を探している。今回の退魔師も似たような奴だろう。過去の栄光に縋って今の時代を滅茶苦茶にしようとする。巻き込まれる連中の事など考えちゃいない。そんな奴が今の時代に沢山いる」

普段から誰に対してもキツイ態度をとる新城だが、瀬戸さんに対して少し厳しいかなと思った理由がわかった。

「瀬戸さんを守るために冷たく当たるの?」
「それが正しいかと言われるとわからん。だが、お前と違ってアイツは普通なんだよ。今回は非常時だったから術に協力させた。だが、今度は関わらせない。その方がきっと幸せなんだ」

寝ている瀬戸さんをみている新城の目は優しい。

「いつか、すぐでなくても瀬戸さんと話をしたら?」
「話?何の話だ?お前は陰陽師の血を引くから大勢の奴らに狙われるんだぞと伝えるのか」
「彼女に隠して何も言わないっていうのはきっと、違うんじゃないかな……隠すよりも明かして一緒に考えるとか、その方がまだいいんじゃないかと僕は思う」
「隠すよりも、明かす……ね」

新城は話しながら眼帯へ触れる。