数回ほど、怪異や退魔師等の戦いを目撃しているだけの自分が新城のような術が使えるわけがないと首を振る。

「術の操作は俺がやる。お前に頼むのはイメージだ」
「イメージ?」

こてんと首を傾げるユウリ。

「治癒術は術式を描いて力を注ぎこめば完了というわけじゃない。術に力を注ぎこむ際に対象者が治る姿をイメージしなければならない」
「そのイメージを、アタシがするの?」
「悪いがその手のイメージと相性が悪くてな。だからお前に頼む。俺よりもイメージができるだろう」

新城の説明にユウリは悩む。

「でも、その、それなら他の人が」
「悪いが俺達はタイムリミットがある。急いでミズチを退魔師から取り戻さなければならない。取り戻すための戦力として、雲川は必須だ。それが青鬼によって負傷している……奴を完治させないといけない。わかるな?」

ユウリは小さく頷いた。

「術式を展開する。俺が合図したらイメージを始めてくれ」
「イメージって、どんな」
「治療後の相手の姿をイメージだ」

彼女の肩を叩きながら新城は描き切った術式へ触れる。
雲川を囲むように描かれた術式が緑色の淡い光を放つ。
陣から淡い光が粉雪の様にちらちらと舞い始める。

「イメージを始めろ、ゆっくりでいい」

いつもと異なる優しい言い方にユウリは小さく笑う。


――普段から優しい言い方をすればいいのに。


いつもの態度と違う優しい新城の姿。
ユウリは意識を切り替える。
初めての事で緊張するはずなのに、今は驚くほど冷静だ。

「大丈夫」

今の言葉は自分に言い聞かせたのか、傷だらけの雲川へ伝えたのかわからない。
ユウリは見事、イメージ通りに雲川の傷を完治させた。