受け取った腕時計をみて、目を見開く。
腕時計の針が逆方向に動いていた。

「え、これ、悪戯か何か?」
「ここは時間の流れが違うって話はしたな?俺達が済む人間の世界と色々と異なる。例えば、外」

術式の展開を終えた新城は白目を剥いている彼方を布団に寝かせる。
そのまま傍の窓を開く。

「この世界に朝や昼という概念はない。あるのは夜の世界のみ……実感したか?ここが別世界だって」
「わ、わかった……ねぇ、今、目の前を変なものが飛んで行ったんだけど」
「気にするな。こっちじゃ、よくある」

びっくりしているユウリに新城はいつも通りに答えて、卓袱台の上に置かれている湯飲みを手に取った。

「ふぅ、一仕事した後の茶はおいしい」
「爺みたい」
「うっさい。さて、そこの一条彼方が目を覚ましたら行動に移すぞ。ミズチを取り戻すのに、コイツは必要だ」
「今回の件に、彼方君を巻き込むの?その、大丈夫なワケ?」
「さぁな、祓い屋が一般的に妖怪、神クラスの案件に関わることは少ない……使える手札は大いに越した事はない」

疑うような目でユウリは新城へ問いかける。

「彼方君を利用するってこと?」
「なるべくそうならないように努力はする。だが、最悪の事態になっていた場合、確約は出来ない。何せ、俺達の命に関わる話だ」
「退魔師とかいうあの女がやろうとしている事って、そんなにヤバイの?」

ユウリは怪異、退魔師、祓い屋の世界について詳しくない。
いまいち、退魔師の女がやろうとしていることについて把握できていなかった。
湯飲みを置いて新城はそのまま横になる。

「そうだな、だが、お前はここまでだ。ここで待っていろ」
「なんで!?アタシだってミズチの事が心配なんだよ!この世界で一人待っていろっていうの!?」

激昂するユウリだが、新城は表情を変えない。

「この世界にいる方がまだ安全だ。青鬼の連中は強い。その為にここへ連れてきた」
「アタシはこんなところで待っているなんて嫌だ。絶対についていく!」
「俺の忠告を無視するというならここから先は命の保証はしない。死にかけたところで俺は助けない」