「私の配下を倒すとは、お前が噂の新城凍真だな?」
「駒のように扱い、気配すら感じさせないアンタが本物の退魔師とやらってことか?」

退魔師が微笑む。
今の笑みが答えということだろう。

「おっと、動くなよ?」

退魔師の指がミズチ様の額へ触れる。

「名高い祓い屋の新城凍真なら理解できるよな?実力ある術者なら指先一つだけで呪う事が可能ってことくらい」
「それで?人質なんて最低な事をしながらアンタは何をするつもりだ?」
「決まっている。悲願を果たす……なーんつってな」
「その態度なら違うみたいだな」

新城は冷静に相手から情報を聞き出そうとしている。
これ以上、人質をとられないように僕は瀬戸さんを守れる位置に立つ。
出来るなら一条君を助けたいけれど。

「どうせだから教えてやろう。私は戦争がしたいんだよ」
「戦争だぁ?」
「そう戦争だよ。今の世は温い、怪異を祓うしか手段がない者達、妖怪は妖界にいて花嫁花婿を探すときくらいしかやってこない。こんな事ってあるか?失われた時代、長い歴史の中で人と妖怪は争ってきた。そんな血沸き肉踊る時代に生まれたいとずっと思っていた!だから、起こそうと思うんだよ。戦争を!」

片手を広げて楽しそうに語る姿。
目は狂気に染まりながらもギラギラしている不気味さがある。

「狂っている」

僕の呟きが聞こえたのだろう、ぐるりとこちらをみる。
ぎょろぎょろと目が怪しく輝いた。

「おや、狂っているといったかい?それは時代が平和だからだ。世が世なら私は英雄だろうよ」
「チッ!」

僕の前に立った新城が地面に手を叩きつける。
いつの間にか周囲に現れたモヤが瀬戸さんを含めた僕達を閉じ込めようとした。
新城が結界を貼っていなければモヤに僕はおろか瀬戸さんも餌食になっていただろう。

「逃げやがったな」

モヤが消えると退魔師とミズチ様の姿はどこにもない。

「ミズチがいない!アイツに連れていかれたんだ!探さないと!」
「どうやって探すつもりだ?」

駆け出そうとした瀬戸さんを新城が止める。

「探す宛があるのか?」
「そんなの、ないけど、でも、急がないとあの女、ミズチに何するかわかったもんじゃない」

退魔師の狂気を目撃したからか、瀬戸さんの目は恐怖と不安に揺れている。

「探さないといけない事はわかっているが、それよりも前に面倒な連中がきた」

背後に感じる気配。

「動くな」

振り返ろうとした所で冷たいものが突きつけられる。
これは刃だ。
新城と瀬戸さんの背後にも何者かが立っていて刃が突きつけられていた。
忍みたいな装束姿だけど、額から角?らしきものがみえる。

「な、なに!?」

刃を突き付けられて怯える瀬戸さん。

「一足遅かったな、アンタらが来る前に敵さんは去ったぞ」

新城は冷静だった。

「主が詳細を求めている。来て頂こう」

「はいはい、行きますよ。妖界へ」