新城が戻ってきたのは出て行って一時間と少ししてからだった。

「あ、お帰り~」
「お待ちしておりました。祓い屋様」
「少し見ない間に随分と打ち解けているな」
「うん!ミズチはとっても良い子だもん!」
「ユウリ様はとても博識で色々と人間界の事を教えていただきました」

不在の間に瀬戸さんとミズチ様はとても仲良しになっており、お互いに名前呼びをしている。

「まぁいいや、探していた人間についてだが」

手元にある資料を眺めながら新城が説明する。
カナタ、もとい、一条彼方。
年齢は十四歳で驚くことにこの町に住んでいるらしい。

「あぁ、カナタに会えるという事ですね!」

目を輝かせるミズチ様に瀬戸さんが嬉しそうに肩を叩く。
後ろで流が刀を抜こうとしていたが僕がやんわりと止める。

「本当に会うんだな?」
「えぇ、えぇ、その為に我はこの世界へやってきたのです!勿論です」
「はぁ」

ミズチ様の言葉に新城はため息を零す。

「この時間、コイツは公園でスケッチをしている」
「すぐに行こうよ!会えるチャンスなんだし!」

新城の言葉に行こうと促す瀬戸さん。
少し悩んでいたミズチ様だったが覚悟を決めた表情をして立ち上がる。

「生きましょう、カナタへ会いに」

彼女の言葉に瀬戸さんは頷き、流は感動のあまり涙を流していた。

「あ、お前はついてくるな」
「なっ!?どういうことだ!姫様の護衛として」
「人間にちゃんと化けれるならともかく、不完全な奴を外に出せるわけないだろうが」
「うぐ!?」

指摘されて流は顔を歪める。
ミズチ様は人間として完全に化けているけれど、流は魚妖怪の部分が残っていた。
そんな状態の相手を外に出してしまえば、大騒ぎになる。
何より退魔師が嗅ぎつけてやってくるかもしれない、新城はそれを警戒しているのだろう。

「流、貴方はここで待っていなさい」
「姫様!?」
「我は大丈夫です。祓い屋様、守りて様もおります」
「し、しかし」
「では、命令です。待っていなさい」
「わかりました」

変わり身速いな!?
ミズチ様の足元で膝をついた流。
命令という事だが納得はしていないのだろう、拳がぷるぷると震えている。
指摘したら色々とややこしいから何も言わず僕は新城の後に続くことにした。



一条彼方という人間は僕達の住む町にある中で大きな自然公園の一角にいた。

「あれが、一条彼方?」

瀬戸さんの視線は家の近くでスケッチブックを手に何かを書いている少年へ向けられている。
幼い顔立ちにメガネをかけた気弱そうな少年。
手にスケッチブックを持って池の方をみながら鉛筆を動かしている。

「……間違いありません。成長しておりますが、カナタです。我はわかります」

瞳をキラキラさせながら一条彼方氏をみているミズチ様。
新城が小さなため息を零す。

「どうするんだ?このままみているだけでいいのか?」
「いえ、その、何の話をすればいいのか」
「普通に挨拶すればいいだろうに」
「恋愛レベル1のガキか~」
「お前も似たようなもんだろ」

ぽつりと零した瀬戸さんの言葉に新城が噛みついた。
数秒してバチバチと火花をぶつけあう二人。
このままではラチがあかないと思うので僕はミズチ様へ声をかける。

「ミズチ様、会いたいという気持ちに嘘偽りはないんですよね?だったら、話しかけないと」
「守りて様……ですが、彼が、カナタが我の事を覚えていなければ」
「その結果は動かないとわからないです。会わずに後悔するより会ってから後悔すべきです……動いたことで得られたものもありましたから」
「守りて様も?」
「うん」

俯いて考える様子のミズチ様。
後はミズチ様が考えて行動に移さなければならない。
僕ら外野がどうこう言うべきことじゃない。