学校は、残り数か月の高校生活なんてとても満喫できそうにもない張り詰めた空気だった。
友人のけいちゃんとの話題も、憧れの俳優やネット番組でなく、リアルな進路の話が増えていった

「なんでまゆみたいなイイコがー? 私、先生に文句言いに行ってやろうか」
「いいよ、本当にいいよ……」

休み時間、けいちゃんはいつも私の髪で遊ぶ。彼女は美容の専門学校に進学が決まっていた。
彼女のブラシで髪を梳かしてくれるのがとても心地よかった。そのはずなのに。


「卒業まであんまり時間ないんだからさ、早く解放されるといいよね」
「ごめんね、私が長引いちゃって……。もう終わってる予定だったのに」
「しんぼう、しんぼう。全部終わったら絶対、制服ディズニー行こうね。可愛くヘアアレしてあげるから!」


ささいな言葉や、その髪を触ってくれる感触に、なんだか気まずさを覚えていた。
放課後、部活に明け暮れるグラウンド。どこからか聞こえてくる金管楽器の音。そんなものに耳を塞いで、赤本の背表紙を眺めに図書室へ行く。
そこには無数の”進路”があった。

「私、ほんとに、大学生になんてなれるのかなぁ…」

私は薄々気づいていた。
──『ちょっとな、何かが足りなかったんだ』

担任の言葉はきっと、的を射ていた。
私はどこまでも普通で平凡で、
何かが足りない。