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「だから、もう潰れちゃってるし使わないんだ。いつかくちびるが寂しくない恋ができますようにって」
この物語を掻い摘んで、飲み会の化粧室で友達に話した。

「きっとサナギに出会わなきゃ良かったんだろうね、ハハハ、笑えない話だねー」
そう頭を書いて笑い飛ばそうとすると、
友達は神妙に言った。

「上手く言えないけれど、受験に落ちて、今の大学に来てくれてありがとう」
「ヘッ!?」
「そうじゃないと私たちだって出会えてないもん。それに、しんどい思いをしたからこそ今のまゆがあるんだもん。私は今のまゆだから友達になりたい!って思って声をかけて飲み会に誘ったんだもん」

行こう、と友達は私の手を引き、化粧室の戸を開けると「私たち二軒目の下見してくるー!」と座席につく仲間達に声をかけた。

「寂しくない恋、まゆならできる、できる。大学生活は始まったばかりだぞー!」
夜の繁華街を、お酒なんて飲んでないのに、酔いが回ったフリして二人で介抱しあって歩いた。
雪が降る、十二月の繁華街。スピーカーから流れる陽気なクリスマスソングと、定時の急行電車が走り出す発車音。行き交う人々の雑踏。
それらをまっすぐ見つめた。イルミネーションに捕縛されたツリーが一等と光っている。横をすれ違ってもそれは怖くなかった。そうか、私ここを堂々と歩いていいんだ。足りないものは、これから自分で見つけていけばいいんだ。
「ねぇ……走るよ!」「きゃー!」
そうやって私は、浮かれた景色の一部に溶け込んでいった。

もう、十二月の繁華街を歩いても、怖くなんかなかった。