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一日彷徨った私は、財布に入ったままの、サナギにもらった回数券を握りしめて、店に足を運んだ。麺専門店後藤屋。サナギがバイトをしているにゅうめん屋だ。
「いらっしゃいませぃ」とぶっきらぼうな挨拶をした調理場の店長に回数券を差し出すと、
なにやら驚いた顔をし、「譲ちゃん、ここの席へどうぞ」とすぐそこのカウンターを指さした。
「君、もしかして凪がお気に入りだった子か」
「えっ」
店長は返事をせず、脇からサッと麺を掴むと大きな釜で茹で始めた。湯切りで麺を取り出すと、水でサツと冷やし、ザルの上に置いた。従業員はこの店長ともう一人しかいないこじんまりした店だった。お客さんも他に数人しかいない。
「悪いけどもう凪はここにいないよ。……ちょっと待ってろ」
店長は奥にひっこんで何か紙切れを差し出した。
「アイツ、二週間前に辞めちゃったんだ。大学も退学して、遠い街へ引っ越すんだって言ってたぞ」
「退学……二週間前、って。一緒に大学に行ったのに……?」
「そうか、ついに行ったのか。それはアレだな。手続きだ。手続きをきっとしに行ったんだ」
──文学部事務局。サナギと向かった場所だった。そこは手続きの場所、だったの?
しかも、手がかりを求めてきたのに、もういない?
「今はどこにいるんですか」
「悪いな。何も聞いてないんだ」
陶器のお椀に麺を入れ、適度に溶かした卵が入った鍋の出汁を注いだ。
湯気がぶわ、と舞い上がる。見慣れた上質な黒いトレーにそれが乗せられる。
「その紙、君がもし来たら手紙を渡すように、凪に頼まれてたんだ。あと熱いうちに、にゅうめんもどうぞ」
真っ白の封筒の中には、紙が入っていた。
──これは何?
二つ折りにされたそれを開くと、長文で想いが綴られていた。


