学校でも塾でも、授業のたびに大学受験予備校が作成したという予想問題集が配られる。七十分、八十分と、解く度に一日が終わる。あと何分、あと何日と常に時計とカレンダーを見る生活。睡眠と食事は否定されるべきものだ。食べたり寝たりしたら間に合わなくなる。
塾の先生に呼び出された。てっきりサナギの自習室への不法侵入や出前のにゅうめんを食べていることを注意されるのかと身構えたが違った。
「成績が下がっている」とのことだった。
違ってほっとした。少しだけ安心した。
でも、全く気付いていないのだと思うと、なんだか逆に内心軽蔑した。本当に、私に興味がないんだな。そんな人に、成績の数字のことだけとやかく言われてもな、と思う。
「この時期に、この点数を取る意味を分かってるだろうな」と釘を刺されたが、何も響いてこなかった。
二十二時をまわり、電車で家に帰る。父がリビングのソファで顔を真っ赤にして寝ていた。
タオルケットを身体に被せた。ローテーブルには、おつまみとビールの缶があった。缶を振ると中身はまだわずかに残っていた。
グイ、と缶を持ち上げ、天井にかざす。──健康に悪いよ、というサナギの言葉が頭をよぎりテーブルに置きなおした。
一体あと何日と何時間で自由になれる?解放される?


