《で、どう?》
「どうって、なに」
《ニート予備軍の関畑(せきはた)くん。春休みは充実してるかい?》


三月も半ば、ようやく朝が朝らしくなってきた季節。

午前七時、看護師に半ば強制的に起こされた後、グラムもカロリーもしっかり管理され健康すぎてむしろどこか物足りないと感じる朝食を食べた。軽い検査を終えたら今日のイベントは終了。眩しいほどの白で統一された部屋は一ヵ月も経てば嫌でも慣れてしまうもので、それが余計に僕を虚しくさせるのだった。こんな部屋に慣れたとて、良いことなんか何もない。


「今日は天気いいですよねぇ。ちょっと換気しますね」


僕の返事を待たずに看護師に開けられた窓の隙間。風に乗って花粉が飛んできたのか、くしゅん、と我ながら可愛いくしゃみが出た。



《いいなぁ。私もニートしたい》


元クラスメイトの保呂田(ほろた)から甚だふざけた電話がかかってきたのは、やることもないしとりあえず読書でもしておくかとそんな気持ちで単行本をめくった時のことだった。


「いつも言ってるけど、間違っても怪我人に言う言葉じゃないよ。流石にノンデリ。女子のくせに」
《やぁだ関畑、『女子のくせに』って、今時差別用語よ?》
「お前が言えた立場かよ」
《なはは。まあまあ、元気そうで安心したよ》


そう言って保呂田がはにかむ。横に伸びた唇の間から覗いた歯列が綺麗だ。

元気そうか、僕は。電話越しに、保呂田にはそう思われているのか。元気ないじゃんと心配されたかったわけでもないが、元気だと言い切れるほど前向きな気持ちでもない。じゃあ僕は保呂田になんて声をかけてほしかったんだよ、と己の欲求に呆れた。


「保呂田も元気そうだね」
《はあ? どこが。友達でしょ、本当に元気かどうかくらい声色でわかってよ》
「ええ……」


僕と保呂田は、どうせたった四音で表せる関係だ。それでも、保呂田の少し面倒くさいところは、僕に似ている気がしていた。