〝好きな人〟という言葉で浮かぶのは、会いたいと願うのは、たったひとりだけだった。
「……うん。好き、みたい」
蘭音たちに知られたらまたいろいろ言われそうな案件だ。しかも相手が蓮だなんて、彼等にとっては絶好のネタだろう。
だけど、別にいいじゃないか。誰にどう思われようが、なんと言われようが、もうどうだっていいじゃないか。
私は蓮が好き。この気持ちに嘘はないのだから。
蓮と一緒にいることは、蓮を好きになったことは、なにも恥ずかしいことじゃないのだから。
「なんだ、そうだったんだ! ええー! こういうときってなんて言えばいいんだろ。おめでとうでいいのかな?」
ぱっと笑顔になった咲葵を見て、ふと、出会った頃に咲葵が言っていた言葉を思い出した。
──〝咲葵〟って花の名前ではないけど、向日葵が咲くって意味なんだって。
よく似合っていると思った。咲葵の笑顔は、その場に光が射したような明るさとパワーがある。
「どうなんだろ。おめでとうも変じゃない?」
「そうかなあ。まあとにかく嬉しいから、おめでとうって言っとくね。あ、じゃあこれからは美桜に堂々と凌のノロケ話できるね。あと愚痴も」
「さっきから思ってたけど、凌って名前呼びになってる」
「だ、だって、凌が名前で呼んでほしいって言うから」
「ラブラブじゃん。なのに愚痴なんてあるの?」
「あるよー。凌ってけっこう過保護なの。すっごい心配性だし」
「愛されてるじゃん」
「そう……かなあ。でもほんとお父さんより口うるさいんだよ。あと、字が汚い」
「それただの悪口」
「ほんとに汚いんだもん」
咲葵が冗談めかして笑った。私も笑った。
勝手に抱いていたわだかまりが解けて、昔みたいにただただ笑い合った。
「変な感じ。もう四年も親友やってるのに、今やっと美桜と本当の親友になれた気がする」
「うん。私もそんな気がしてた」
「ていうか、わたしたちお互い勘違いばっかりだったね」
「ほんとだね。勝手に勘違いして勝手に気まずくなって、バカみたい」
「これからはちゃんと話そう。またすれ違ったりこじれたりするかもしれないけど、わたしの根っこには〝美桜が大好き〟っていう気持ちがある。今回それを痛感した。だからまたなにかあったときは、どれだけ時間がかかっても、落ち着いて話せるときに、たくさん話そう」
咲葵のいつもの柔和な笑顔を見た瞬間、ぶわっと涙が溢れてきた。一度壊れてしまった涙腺はしばらく直りそうにない。
咲葵は「なんで泣くの⁉」と驚きながらもけらけら笑って、そしてなぜか泣き出した。私に負けないくらい、めちゃくちゃ泣いていた。
私たちは初めて、お互いの前で泣いた。
散々泣いて、ほぼ同時に泣き止んで、涙と鼻水だらけの真っ赤な顔を見合って、また笑い転げた。