「仲良くなんかないよ。学校では喋ってたけど、それは美桜が坂部と仲良かったから。今と同じ。……実は小学生の頃、坂部にいじめられてたの」
「嘘でしょ? だって坂部ってどう見ても咲葵狙いだったし……」
「わたし昔ちょっと太ってたんだよ。でも中学に入る前の春休みに胃腸炎になって一気に痩せたの。そしたら今度はつきまとわれるようになった。俺んちおいでとか言われるし、LINEもしつこいし。長期連休なんてLINE無視してたら家まで来るようになったんだよ。もう怖くて家にいられなくなっちゃって、お父さんにお願いして塾に行かせてもらってた。近所の塾だと見つかるかもしれないから、わざわざ電車でちょっと遠くまで通ったりして。中三までは夏期講習しか行かせてくれなかったけど」
「咲葵、塾なんて通ってたの?」
「うん。坂部の耳には絶対に入れたくなくて、誰にも言ってなかった」
「そうだったんだ……。てかそれ完全にストーカーじゃん! 気持ち悪!」
「でしょ? そのせいで男の子が苦手になっちゃった。高校入ってからもたまに連絡きてたけど、もうブロックしようと思って。二度と会いたくない」
全然知らなかった。
私はいつだって咲葵を妬むばかりで、咲葵のことをちゃんと見ていなかったのだと思い知らされる。
「言ってくれたらよかったのに。知ってたら坂部と遊んだりしなかったよ」
「言えないよ。だって美桜は坂部のこと好きだと思ってたから」
「あの……なんで? 全然、ちっとも好きじゃなかったけど……」
「だって仲良かったじゃん!」
「よかったけど……だって友達だし」
そう思ってたのは私だけだったけど。
「だって! 好きな人いるっぽかったし! 坂部がわたしにつきまとってること気づいてて、だからわたしには言えないんだと思ってた……」
好きな人?
中学生の頃、好きな人なんていただろうか。よく思い出せないのに、なぜか否定の台詞が出てこない。
そうだ。
いつからか中学時代のことを思い出そうとすると、頭にぼんやりと影が浮かぶようになった。
一体誰なんだろう。
「じゃあこの間のクラス会の話は? わたしがどれだけ断っても誘ってくれてたのに、今回はなにも言ってくれなかったよね? 凌と付き合ったって報告したあとだったから、とうとう美桜に嫌われたんだと思って……」