「まあ、うん。今思えばね。で、それから凌がわたしの話聞いてくれるようになったの。散々愚痴ったよ。別に凌に興味なかったし、引かれようが嫌われようがどうでもよかったから」

 興味がないだのどうでもいいだの、こんな台詞が咲葵の口から出てきたのは初めてだった。

 正直ちょっと怖いけど、咲葵が初めて私に本音をさらけ出してくれていることが嬉しかった。

「だけど凌ね、全部聞いてくれたの。ひでえなーとか口悪いなーとか笑いながら、何時間でも聞いてくれた。ずっといい子の仮面をかぶってきたのに、凌の前ではなんでも言えた。凌の前でなら自分でいられると思った。こんなわたしを受け入れてくれる人がいるんだって安心できた。たぶんわたしも〝自分〟を作ることに疲れてたんだと思う。それから他にもいろんなこと話すようになって……いつの間にか、好きになってた」

「……そんなに前から好きだったんだ。全然知らなかった」

「誰にも気づかれないようにしてたから。だけど凌がわたしのこと好きなのも、凌もわたしの気持ちわかってることも気づいてた。付き合うのも時間の問題だなって思った」

 咲葵が全部わかっていたことには少しも驚かなかった。

 永倉くんが咲葵のことを好きなのは誰から見ても一目瞭然だったし、そうじゃなくても咲葵は鋭い。

「だから、どうしたらいいのかずっと考えてた。美桜に『応援するよ』って言ってもらえれば、なにも知らないふりして堂々と付き合えると思ったんだよ。どうしても凌のこと諦めたくなかった。……だってわたし、初恋だったから」

 緊張しているのだろうか。

 いつもゆったり喋る咲葵の口調が、どんどん速くなっていく。

「美桜のこと庇ってたのだって、もしかしたら優越感に浸ってた部分もあったのかも。わたしは友達のために、恐れずに、間違ってることは間違ってるって強く言えるんだって。でもね、正義の味方ってわけでもないんだよ。だってそれは、凌が絶対に味方してくれるって信じてたからだもん」

 咲葵が顔を上げた。

 一見さっきと変わらない無表情なのに、なんとなく吹っ切れたような、すっきりした表情だった。

「ね、ずるいでしょ。まあ蘭音たちなんて別に好きで一緒にいたわけじゃないし、ハブられたところで痛くも痒くもないんだけど。でも美桜に裏切られたのは正直すっっっごいショックだった」

「……うん。ほんとにごめん」