「わたしがいるのに、なんであの子たちのことばっかり気にしてるんだろうって。別に仲違いしたって、わたしといればいいだけじゃんって。……それってたぶん、美桜がわたしより蘭音と茜を選ぶんじゃないかって、怖かったんだよね」

 咲葵がそんなことを考えてるなんて知らなかった。

 違う。考えようとしていなかった。

 咲葵は強い。私とは違う。

 いつだってそう決めつけていた。

「それにわたし、みんなに思われてるほど聖人君子じゃないんだよ」

「そんなことない。咲葵は……」

「わたしね、デスノートつけてたの」

「デ、デス?」

 ずいぶん物騒な言葉が出てきた。

「自分のどす黒い部分をぶちまけたノート。普通はSNSで裏垢とか作るんだろうけど、ネットっていまいち信用できなくて。あと単純に、自分の手で文字に起こした方がすっきりするんだよね」

 咲葵らしいなと思った。咲葵は昔から字を書くのが好きだったから。私の丸っこい字とは違って、お手本みたいに綺麗な字。

 まつげを落としたまま、淡々と言葉を吐いていく。

「一年生の秋頃にね、それを授業用のノートと間違って学校に持っていっちゃったの。そしたらどっかに落としちゃって。名前は一切書いてなかったけど、内容とか字とかでばれるかもしれないし、すごい焦って探してたら、(りょう)に拾われちゃって。しかもなぜか、わたしが書いたってわかったみたいで。本気で死ぬかと思った。ラブレターとかポエムとか見られた方がまだましだった。書いたことないけど」

 落とし物ってそれのことだったんだ。

 咲葵と永倉くんが話すようになったのは、彼が転校してきてすぐくらいだ。内容はわからないけど(怖いから訊けないけど)、転校してきたばかりで違うクラスだった永倉くんがどうしてすぐに咲葵のものだとわかったんだろう。

 もしかしたら永倉くんは、最初から咲葵のことを見ていたのかもしれない。

 人を強烈に惹きつける引力が、咲葵にはある。

「ごまかそうかと思ったけど、もう終わりだと思って素直に認めた。そしたら、ノートに書くより人にぶちまけた方がもっとすっきりするんじゃないって言われて。びっくりしたよ。そのときはまだ凌のことよく知らなかったから、なんで急に現れた人がわたしにそんなこと言うんだろうって」

「でも、永倉くんらしいね」