走っていた。ただひたすらに走っていた。
思い出す。思い出される。
崩れたパズルのピースが、あるべき場所に戻っていく。
中学生の頃、私が誘われるときは〝咲葵を連れていくこと〟が絶対条件だった。
それには理由があった。
咲葵がいつも「美桜が行かないならわたしも行かない」と言っていたからだ。
いつだってきっかけをくれるのは咲葵だった。
中学に入ったときもそう。小学校卒業までの半年間ひとりぼっちだった私は、新しい環境に馴染めるのか、新しい友達を作れるのか不安で仕方なかった。中学でもずっとひとりだったらどうしようと気が気じゃなかった。
そんな私に一番最初に声をかけてくれたのは咲葵だった。
──綺麗な名前だね。花の名前を見ると親近感が湧いちゃう。
そう言った咲葵のとびきりの笑顔を今でもはっきり覚えてる。
クラス委員と書記になったから仲良くなったんじゃない。順番が逆だ。新学期初日に咲葵がそう言ってくれたから、私は不安を拭えて委員長に立候補できた。
中三の頃だってそう。今ならわかる。
教室に居場所がなくなった私を救ってくれたのは咲葵だった。
いじめられていると咲葵に話したことはない。それでも咲葵はきっと気づいていた。休み時間も昼休みも、いつも私の教室に来てくれた。「美桜とクラス離れちゃって寂しい」なんて笑いながら。
咲葵の前では大声で悪口を言われることもなかった。咲葵はきっと、それもわかっていた。
咲葵はいつだって私をひとりにしないでくれた。どんなときだってそばにいてくれた。味方でいてくれた。
うまくいかないことだらけの学校生活をなんとか乗り切ってこられたのは、間違いなく咲葵のおかげだった。
だけど私は、それを記憶から排除していた。
なぜなら私は、当時から咲葵のことを妬んでいたからだ。
いいな、咲葵は。人気者で、強くて、自分に自信があって。
──ずるいな、咲葵は。
ほら、わたしがいれば大丈夫でしょう?
美桜はどうせ、わたしがいなきゃだめなんでしょう?
そう言われている気がして悔しかった。咲葵の気持ちを素直に受け止める余裕がなかった。全てをマイナスに捉えて、咲葵を嫌いになりそうだった。
それ以上に、どんどん卑屈になっていく自分が大嫌いだった。