廊下に出ても咲葵の姿は見当たらなかった。

 みんな泡を食ったような顔をして私を見ている。

 その中にひとりだけ真顔の人がいた。

 永倉くんだ。

「咲葵ならいないよ。どっか行った」

「どっかって?」

「さあ。急に走って行っちゃったから訊けなかった。あと、たぶん泣いてた」

「泣いてた……? なんで?」

「さあ、なんでだろ。それも訊いてないからわからない。自分で確かめて」

 咲葵が泣いているところなんて一度も見たことがない。

 やっと事の重大さに、そして重大な過ちに気づく。

 咲葵は強い。咲葵は大丈夫。

 罪悪感を極限まで減らすためにそんな言い訳ばかりしていた。蓮に対してもそうだったように。

 傷つかないはずがないのに。

 傷つけた張本人である私に、追いかける権利などあるだろうか。

 永倉くんは私の肩に手を乗せて、ぐっと力を込めた。

「なに迷ってるんだよ。大親友なんじゃないの? ──少なくとも咲葵はそう言ってたけど」