やっぱり怖いものは怖い。
だけど、それでも。
逃げたくない。負けたくない。
もう嫌だ。ずっとこのままなんて嫌だ。
これ以上自分を嫌いになりたくない。
──身体を縮めて俯くと、無駄に相手が大きく見えちゃうんだよ。
耳元で、確かに蓮の声がした。
蓮が私の心に置いてくれた言葉が、ふわりと溢れてきたみたいだった。
──こうやって背筋を伸ばして、相手の目をじっと見るんだよ。そしたら怖さなんてすぐになくなる。
そっと頭を撫でられたような安心感が身体を包んだ。
蓮は何度も伝えてくれた。
私は──ひとりぼっちなんかじゃない。
すぼんだ肩を張る。曲がった膝を伸ばす。落ちていた目線を上げる。じっと目を見つめる。
蘭音はぎょっとして首をわずかに後退させた。
「……確かに、そうだね。今までハブかれるのが怖くてなにも言えなかった。ずっと合わせてた。バカみたいにへらへら笑うことしかできなかった」
安定した学校生活を送るためには、うまく生きていくためには、スクールカーストの上位に君臨していなければいけないと思っていた。だから蘭音の機嫌をとることに全神経を集中させていた。
だけど、なにをそんなに怯える必要があったんだろう。
目の前にいるのは、ただの女の子だった。
ただ同じ年に産まれて、ただ同じ高校に進学して、ただ同じクラスになっただけの、なんの権利も権力もない、ただの女の子。
蘭音は──茜は、そしてリサは、強者なのだと思っていた。
いや、確かにそうなのかもしれない。
だけど彼女たちが持っているのは〝強さ〟なんかじゃない。
私と同じだったのかもしれない。誰かのせいにしなければ、誰かを蔑まなければ、誰かを傷つけなければ、心のバランスを保てないだけなのかもしれない。
私と同じ、ひとりじゃ立っていられない、弱い人間だったんだ。
哀れだな、とさえ思う。目の前にいる彼女たちも、なにより自分自身も。
「前に蘭音が言ってたみたいに、友達がいないなんて生きてる意味ないって、心のどこかで私も思ってたのかもしれない」
そもそもクラスメイトなのに上も下もあるのだろうか。
ただ外見が派手か地味か、性格が明るいか大人しいか、誰かが勝手に決めた基準をもとに分類されただけ。たったそれだけの話。
私はありもしない上下関係に怯え続けていた。感情を殺してまでしがみついていた。