そう確信している表情に違いなかった。
「咲葵は、悪くないよね。咲葵から男の子たちに手伝ってって言ったわけじゃないし。咲葵がお願いしたんだとしても、あの木材けっこう大きいし、女の子ひとりで楽に運べるほど軽くないと思う」
教室が静寂に包まれた。クラスメイトたちの視線が、一斉に私に向いたことがわかった。数人の息を呑む音がかすかに響いた。
みんなどんな顔をしているだろう。
確認はしなかった。ふたりから目を逸らさなかった。
三日月型の目は満月よりも丸くなり、数秒間の沈黙ののち、未だかつてないほどに鋭く尖った。
握り締めた拳を、歪んだ唇を震わせながら、その目を容赦なく私に突きつける。
屈辱以外の何物でもないだろう。まさに飼い犬に手を噛まれたのだから。
「──は?」
まさか自分が時限爆弾のスイッチをオンにする日が来るとは思わなかった。
もうチャンスは訪れない。後戻りはできない。時間は決して戻らない。
進級するまでの残り一年間──進級時のクラス替えで離れなければ卒業までずっと──ひとりで過ごすことになる。
「ふざけんなよ。急にいい子ぶってんじゃねえよ。あんただって咲葵のことぼろくそ言ってただろうがっ」
蘭音のヒステリーな声が静寂を引き裂いた。
ぼろくそ言った覚えはないものの、弁解するつもりはない。庇うことができなかったのだから、私だって同罪。
今回だけじゃない。私はずっと、被害者ぶった加害者だった。
いつだって私は、保身を最優先に考え、思ってもない台詞をロボットみたいに繰り返し、仮面が張り付いたみたいに歪な笑みを浮かべていた。
いつだって私は、なにかある度に誰かのせいにしていた。そうしなければ立っていられなかった。そうすることで、心のバランスをぎりぎりのラインで保っていた。
切り捨てられることを誰よりも恐れていたくせに、大切な親友を見捨てた。
かつて一番嫌いだった、絶対になりたくないと思っていたはずの人間になってしまっていた。
もう言い訳はしない。できない。していいはずがない。
私は最低な人間だった。
「つーかさ。うちらに啖呵切ったりして、どうなるかわかってんの?」
物理的な距離が縮まったわけではないのに、蘭音の絡みつくような視線に身体の自由を奪われる。蛇に睨まれた蛙の気持ちが、今なら誰よりもわかる。
条件反射みたいに肩がすぼむ。足が竦む。目線が床に落ちる。