「傷つけたくないとか、心配かけたくないとか、確かに大事なことだと思う。けど、辛いときくらい自分のことだけ考えていいんだよ。心に限界を感じたときは、自分の殻に閉じこもったっていいんだ。それは自分を守るために必要なことだと思うから」
「……うん」
「強くなりたいって気持ちわかるよ。だけどひとりで耐えようとしなくていいんだよ。誰かに頼ったり甘えたり、助けを求めていいんだ。誰も守れなくたっていいんだ。自分の心を最優先に守っていいんだ。それは弱さなんかじゃない」
「……うん」
「何度でも言う。ひとりぼっちなんかじゃない。俺は絶対に味方だから。……俺またわけわかんないこと言ってない? 大丈夫?」
「うん、だいじょう──」
昨日泣いたことで涙腺のストッパーが完全に壊れたのか、また涙がこぼれてきた。
私は物心がついた頃から人前で泣いたことがほとんどない。咲葵の前でも、お母さんの前でも。
泣くのは弱いからだと思っていた。恥ずかしいことだと思っていた。
強い人間だと思われていたかった。だからずっと堪えていた。それがいつしか塊となって、吐き出せなくなった。
だけど、私は。本当は。
ずっとずっと、こうして思いきり泣きたかった。
「……ありがとう、時生」
時生は私に気を遣ってくれたのか、はたまた自分も泣いているのか、顔を背けて黙っていた。
どうして時生は、いつも私にたくさんの言葉をくれるんだろう。どうして手を差し伸べてくれるんだろう。寄り添ってくれるんだろう。そばにいてくれるんだろう。
時生はたぶん、大切な人がいなくなってしまった経験がある。
もしかしたら、その人を傷つけてしまったことがあるかな。それをずっと後悔しているのかな。
雑居ビルの屋上で話したあの日、私の心の闇に気づいて、だから放っておけなかったのかな。
いなくなってしまったその人を、私に投影しているのかな。
私を救うことで、過去の自分も救おうとしているのかな。
訊いてもいいだろうか。私も時生の役に立てるだろうか。
時生が、私の心に埋まっていた塊を解きほぐしてくれたように。
「ねえ、時生」
まだ涙は止まっていなかった。
呼吸が乱れたままだった。
それでも言わずにはいられなかった。
なぜか少しだけ、気持ちが逸っていた。
「はい」
振り向いた時生は泣いていなかった。
「なんでこんなに私のこと気にかけてくれるの?」