髪をばっさり切ってもらって、お会計を終えて外に出た。

 つい一時間前はまだ少し残っていた湿気も雲もなくなっていた。昨日の大雨が嘘みたいに、雲ひとつない晴天。

 長かった髪と一緒に胸のもやもやまで落ちてしまったみたいに、気分が晴々としていた。

 時生に【終わったよ】と送ると、すぐ近くで待っていたのかすぐに現れた。

 と思ったら、私を見て仰天している。

「え……変?」

「可愛い」

「えっ」

「めちゃくちゃ可愛い。めちゃくちゃ似合ってる」

 時生でもお世辞を言える──とは思えない。それにこんな顔芸ができるとも思えない。たぶん本心で言ってくれている。

 時生の素直さはこういうときも発揮されるのか。

 忘れかけてたけど、そういえば一番可愛いと思ってるって言われたこともあったっけ。

「時生ってそういうこと平気で言うよね……」

「嫌だったならごめん」

「だからそうじゃなくてさ……。恥ずかしくないのかって話」

「傷つけること言う方がよっぽど恥ずかしいと思う」

 時生が突然こういうことを言うのは慣れる気がしなかったけれど、あまり驚かなかった。多少は免疫ができているらしい。驚かされてばかりだから当然かもしれない。

「あの!」

 緊張のせいで思っていた以上に大声が出た。

 超近距離で急に叫ばれた時生はびくっと跳ねた。

「行きたいとこ思いついた?」

「そうじゃなくて。あ……りがとう。その、嬉しい。すごく」

「あの!」の大声が嘘みたいに、かすれた声しか出なかった。

 ありがとうとか嬉しいとか、そういうプラスな言葉は最近の私の辞書からすっぽり抜けていて、まるで覚えたての言葉を言うみたいにぎこちなくなってしまった。

「うん」

 歪に微笑した時生は「どこ行こう」と呟きながら、私に背中を向けて歩き出した。