雨上がりの空は澄んだ青だった。空気中には若干湿気が残ってはいるものの、不快に感じるほどではない。
神社に着く寸前に気づいた。学校祭の準備だとしても休日は休日なわけだから、どちらにしろ私服でよかったのだ。
急いでいたせいで考えが及ばなかったことを今さら後悔する。とはいえ家に戻る勇気はない。お母さんと鉢合わせてしまったら、今はまだなんて声をかけたらいいのかわからない。諦めて木に囲まれている石段をのぼった。
少しどきどきしながら石段に座って時生を待っていると、五分もしないうちに現れた。
もちろん私服で来るとばかり思っていた時生は、
「……なんで制服なの?」
まさかの学ランだった。しかも手袋とマフラーまでしている。
「自分だってそうじゃん」
確かに。いやそうじゃなくて。
「もしかして風邪引いちゃった?」
「引いてないよ」
「ほんとに? 元気?」
「元気」
「じゃあなんで完全武装なの?」
「寒いし」
寒いけど。そんなことわかってるけど。
「もうすぐ五月だけど……」
「え、変?」
この人なに言ってるの?
……まあいいか。時生が変なんて今に始まったことじゃないし、いちいち気にしたら負けだ。
鞄を持って立ち上がった。
「今日はどこ行くの?」
「どこ行きたい? どこでも付き合う」
「え? 時生が考えてくれてるんじゃなかったの?」
「えっ全然」
なんだそれ。これがデートだったら相手の子怒って帰っちゃうんじゃないの。
時生が女の子の心を躍らせるような計画を練っていたらそれはそれでびっくりだけど。
「行きたいところ、かあ」
気を取り直して考えてみても、特に浮かばない。いつメンで出かけるときは私に決定権どころか発言権すら皆無だったから、最近は考えることすらなくなっていた。
首をひねって考え込んでいると、ぶわっとつむじ風が吹いた。
弄ばれた髪が顔を覆って視界を奪われる。
「ああーもう、邪魔……」
顔を覆った髪をつかむと、手触りだけでわかるほど傷んでいた。
伸ばしっぱなしの、ぼっさぼさでごわごわした艶なんてまるでない髪。毛先は枝毛だらけだ。
そういえば最後に美容室行ったのいつだっけ。
「髪、切りたいな」
「髪?」
「うん。ほんとはね、ミディアムくらいの長さが好きなの。不器用だからアレンジとかできないし、お風呂のあとに乾かすのも面倒だし。だけどほら、蘭音って髪長いでしょ? だから合わせてただけなんだ」
言った瞬間、自分で引いた。髪の長さまで合わせるなんてどうかしている。
「ミ、ミディ……?」
そこでつまずかれるとは思わなかった。
「肩くらいの長さ」
「ああ」
「でも美容室なんて行ったら時生が暇だよね。また今度にする。えっと、他には……」
「わかった。行こう」
「いいってば。だってカットだけでもたぶんトータルで一時間くらいかかるし」
「暇つぶしは得意だから大丈夫。いいから行こう」
得意そうだけど。
さっさと歩き出した時生を慌てて追った。