私はきっと不幸じゃない。

 世の中にはもっと大変な環境に身を置いている人がたくさんいる。私は贅沢者。

 だから辛いなんて言えなかった。

 死にたいなんて、誰にも言えなかった。言えるわけがなかった。

 だってたいした理由もない。メンヘラだとか構ってちゃんだとか被害妄想が激しいだとか、バカにされるに決まっている。

 ──たいした理由もないのに死ぬわけなくない?

 どうしてだろう。

 どうして、生きるのは理由なんていらないのに、死ぬのは理由が必要なんだろう。

「……こんな毎日、もう疲れた」

 それは死ぬ理由にはならないの?

 どれだけの理由があれば「仕方ないね」と言ってもらえるの?

「わかってるんだよ、自分が悪いんだって。言いたいことなんてなにひとつ言えなくて、ただへらへら笑って周りに媚びて、マイナスなことばっかり言ってうじうじして……大嫌いだよ、こんな自分」

 ずっとずっと、いつ死んでもいいと思っていた。

 家にも学校にも居場所はない。気を張り詰める毎日はもううんざりだった。疲れ果てていた。「いつ死んでもいい」なんて思いながら生きているのはとてつもなく無気力で、生きている心地がしなかった。

 生きたくても生きられない人がいる。そんなことわかってる。だけどもう、人の気持ちを考えられるほど心に余裕がなかった。

 こんな鬱屈した毎日がこれからも続いていくのだと思うと、絶望しかなった。

 安心できる居場所なんて、生きる理由なんて、未来への希望なんて、なにひとつなかった。

「もう、どうしたらいいかわかんないの。──生きていくことが、どうしようもなく怖いの」

 言って、気づいた。

 ああ、そうか。私は〝死にたい〟んじゃない。

〝死ぬ〟以外に、ここから逃げる方法がわからなかったんだ。

 死ねば天国に行けると信じているほど夢見がちじゃない。楽になれるとも思っていない。〝死〟が楽であるはずがない。

 絶望の先にあるのは、きっと完全なる〝無〟だ。

 安心できる居場所が、生きる理由が、未来への希望が見つからなかったから。

 だから私は〝無〟になりたかった。

「……あんなのいじめだよ」

 時生は震えた声で呟くように、けれどはっきりと言った。

「精神的に追い詰めて人の心を壊すなんて、れっきとしたいじめだよ」

 中三の頃、紛うことなき悪意を見た。

 あの頃に比べたらましだと思っていた。