一年分くらいの不幸が一気に降ってきたみたいに悲惨な一日だった。まるで悪夢だ。
むしろ悪夢ならよかったのに。結局は夢で、いつかは醒めるのだから。
落ちるところまで落ちたらあとは上がるだけとか言うけれど、そんなのは綺麗事。
だって、どれだけ最悪だと思っても、もっと悪いことが起きる。
いっそのこと泣いてしまいたかった。お母さんみたいになりふり構わず叫んで、幼い子供みたいに泣きじゃくってしまいたかった。
そう思うのに、涙は出なかった。
そういえば私、最後に泣いたのいつだっけ。涙が出ないってことは、まだ大丈夫なのかな。辛いなんて、単なる被害妄想なのかな。
歩行者信号が青になる。一歩、二歩と足を踏み出していく。
右折車のライトに照らされた。スピードを緩めることなく曲がってくる。
──あ。轢かれる。
頭ではわかっていたのに、身体が動かなかった。
怖いとか、そういうことじゃなかった。
迫りくる車を呆然と見ながら、確かに思った。
──轢かれても、いいや。
だけど車は私の一メートル手前で止まり、フロントガラスの奥にいる女の人は、暗がりでもわかるほどに青ざめていた。
歩行者信号が点滅する。また一歩、二歩と足を踏み出していく。
横断歩道を渡りきったとき、ぽつぽつと雨が降り始めた。
ふいに空を見上げた。頬に雨粒が落ちた。すうっと滑って落ちていった。
空が、私の代わりに泣いてくれた。
そんなバカげたことを思った。