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ふらふらと家路についていた。
足元がおぼつかなかった。
まるで全身の筋肉が弛緩してしまったみたいに、身体中のどこにも力が入らなかった。
果てしなく続いていきそうな道のりを歩いていく。
家が見えてきたとき、足が止まった。
すがるようにスマホを取り出した。
──大丈夫。まだ大丈夫。
そうだ、やっぱりクラス会しよう。とりあえず来られる子たちだけで集まろうと坂部に提案しよう。
大丈夫。私たちのクラスは〝青春〟を具現化したような仲良しクラスだった。
「もしもーし」
「もしもし、坂部? あのさ、やっぱりGW中にクラス会しない? 早くみんなに会いたいなーと思って」
「夏休みにって言ったじゃん。咲葵は来れねえんだろ?」
「咲葵は……まだわかんないけど」
「わかんないっていうか、連絡してみたら無理だって言ってたよ」
「え?」
どくん、と心臓が跳ねた。
「咲葵がいなきゃ男集まんねーし、そんなに早くクラス会したいなら女子だけで集まれよ。じゃあな」
私たちは青春を具現化したような仲良しクラスで──。
そんなものは幻だったのだ、と気づく。私だけが見ていた儚い幻想。
思い出す。思い出される。
ところどころ欠けていたパズルのピースが埋まっていく。
脳裏で当時の映像が再生されたとき、気づいてたな、と思った。
男女混合のグループを作るとき、坂部は真っ先に私を選んだ。みんなで遊ぶとき、真っ先に私を誘った。坂部は特に仲がいい友達だと思っていた私は、それが素直に嬉しかった。
だけど、私が呼ばれるときは条件があった。
それは、咲葵も連れていくこと。
みんなで集まっているとき、彼等の目線が、声が、私に向くことはなかった。いつだって笑っている彼等を遠巻きに見ているだけだった。自分も輪に馴染んでいるかのように、へらへら笑いながら。
高校に入ってからだんだん集まらなくなったのだって、咲葵が今まで以上に顔を出さなくなっていったからだ。
いつだって私は〝咲葵のおまけ〟で、咲葵を連れてさえ行けば私自身はもう用無しだった。友達だと思っていたのは私だけだった。
記憶が混濁していたのは、頭を打ったからじゃない。自ら鍵をかけて封印していた。
学校生活がなかなかうまくいかない私にとって、当時のクラスは特別だった。心の拠りどころだった。ずっとずっと、楽しかった思い出以外を記憶から排除して、きらきらした青春物語を作り上げていた。
パズルがひっくり返って、全てが真っ逆さまに崩れ落ちていった。