「あ、ねえ! ツイッターで検索してみたら北高の子たちが何人かツイートしてるよ。あとこの高校に妹いるみたい。どういう状況だったのか訊けないかな」

 行き過ぎている。

 決して獲物を逃すまいと牙を剥き出しにしている野次馬たちを、ただただ傍観することしかできなかった。

 状況を訊くなんてしていいはずがない。家族は茫然自失としているだろうし、お葬式だって、自死なら家族葬にするかもしれない。そうじゃなくても、仲良くもなかった子たちに大勢で押しかけられて、亡くなった子はどう思うだろう。

 どうしてよく知りもしない人のことを根掘り葉掘り探ろうとするんだろう。

 どうしてそんなことができるんだろう。

 死んでしまった人には、プライバシーはないというの?

 だけど死んだらなにも見えないし聞こえないわけだから、いいのかな。

 ──本当に、いいのかな。

「……あの、それはちょっと」

 身体中の水分が蒸発してしまったみたいに喉がからからだった。

「美桜? なに?」

 蘭音は本当になにが言いたいのかわからなそうにきょとんとしている。

「その、妹に訊くっていうのは、さすがにやめた方がいいんじゃないかな。急なことでバタバタしてるだろうし、気持ちの整理だってつかないだろうし。私だったら、そっとしておいてほしいっていうか、あんまり騒がれたくないなって……」

「は? 騒いでるってなに? うちらが好奇心でやってると思ってんの?」

 好奇心じゃん──。

 クラスメイトたちの突き刺さるような鋭い視線が、一斉に私に向いた。

 その眼差しに込められているのは軽蔑なんかじゃない。イベントを邪魔されたことに対する苛立ちだ。

「身近にいる同い年の子が自殺したんだよ? 美桜は心配じゃないの?」

「うわー、引くわまじで。冷た。美桜ってそういうとこあるよね」

 機械みたいに冷たい声を浴びた私は、氷ついたように立ち尽くした。

 条件反射みたいに肩がすぼむ。足が竦む。目線が床に落ちる。

 握り締めた拳が、膝が、心臓が、小刻みに震え出す。

「わたしも嫌だな」

 視界の端でポニーテールがふわりと揺れた。声を上げたのは咲葵だった。

 しん、と静まり返る。

「好奇心じゃん。悪いけど本気で心配してるようには見えないよ。どっちにしろ、わたしだったら勝手な憶測立てられたくないし根掘り葉掘り探られたくない。お葬式だって仲良くもなかった人に来てほしくない。こんな風に騒ぎ立てて、最低だよあんたたち」

 蘭音も茜も、周囲の子たちも、目を剥いた。

 次第に蘭音の顔が赤に染まり、唇がわなわなと震え出す。

 約一ヶ月ぶりに、解除不可能な時限爆弾が作動する。

 咲葵はまるであの日の時生みたいに、颯爽と教室から出ていった。