また誰かが言うと、またみんなはうんうんと頷いた。

 私は頷けなかった。首が、身体が、固まってしまったみたいに動かなかった。

 そう、なのかな。明確な理由なんて必要なのかな。

 いじめられてたり虐待されてたりしなければ、自殺するわけないのかな。

 辛いのは自分だけなんて思ってなかったんじゃないのかな。

 だからこそ誰にも言えなかったんじゃないのかな。

 遺書がなかったなら衝動だったのかもしれないし、内に秘めていたものを誰にも知られたくなかったのかもしれない。

 亡くなった子のことは知らない。

 なのに、とても他人事とは思えなかった。

 心がやすりで削られているみたいにずきずきと痛んでいた。

 他人である私たちに真意なんてわかるはずないのに、暴く権利なんてあるはずないのに、みんなは真相を解明するため躍起になっていた。

 そっか。死んだらこんな風に言われるんだ。

 死んでまでも、こんな風に言われちゃうんだ。

 きっと静かに眠りたいはずなのに、誰もそうさせてはくれないんだ。

「自殺する人が弱いなんて思わない」

 言い放ったのは、いつの間にか私の後ろに立っていた時生だった。

 けれど高揚しきっている彼等には届かなかったのか、誰ひとり見向きもしない。

「てか名前は?」

「教えてもらったんだけどさー」

 本当に聞こえていなかったのだろうか。

 もうひとつの可能性を私は知っている。標的から外された人の末路を、痛いほどよく知っている。

 時生は初めて見せる沈痛な面持ちで、その場をあとにした。

 永倉くんだけが心配そうに時生の後ろ姿を見つめていた。

「なんて読むのかわかんないんだよね。キラキラネームっぽくて」

 そこそこキラキラネームの蘭音が言いながらスマホの画面を見せると、ひとりの女子が両手で口を覆った。

「あたし知ってるよ! 中学同じだったし!」

 輪の中心人物が交代した。いつもなら機嫌を損ねる蘭音も、今日ばかりは情報収集が最優先なのか素直に譲った。

「まじ⁉ 仲良かったの?」

「あんまり話したことはないけど、一年の頃に同じクラスだったよ」

 まじか、やべえじゃん、写真持ってねえの? ないなら卒アル見せてよ。

 そんな声が次々と飛び交う。

「とりあえず中学の友達に連絡してみる! お葬式やるよね。みんなで行かないと」