〈四月二十八日(木)日直 逢坂・上野/欠席 渡辺〉

「ねえ! 北高の子が自殺したって!」

 蘭音の叫び声が響き、食後の気怠さが一気に吹き飛んだ。教室が瞬く間に騒然となっていく。クラスメイトたちがわらわらと蘭音を囲み、十数人の輪ができ上がった。

『北高』は近辺の高校だ。

「まじ?」

「まじまじ! 北高の友達が言ってたから間違いないよ。同じクラスだったんだって」

 わあ、とか、ひゃ、とか擬音が飛び交う。

「いじめられてたの?」

「訊いたけど、いじめられてはなかったみたい。別に陰キャってわけでもなかったらしいし」

「でもいじめられてもないのに自殺なんかしなくない?」

「虐待受けてたとか?」

「ありえるよね。友達に訊いてみようかな」

 みんなが口々に言うと、蘭音はすぐさまスマホを握った。

 一分と経たずに再び顔を上げた。

「虐待されてるって噂もなかったみたい。遺書もなくて、なんで死んだのか誰もわかんないって」

「えーでも、理由もないのに死ぬわけなくない? 周りが気づかなかっただけで、いじめとか虐待とかあったんじゃないの?」

 誰かが言うと、みんなはうんうんと頷いた。

「つーか自殺って? 首吊り?」「首吊りってすげえ汚ねえんだろ。うわー、俺絶対やだわー」「飛び降りかもしれないじゃん」「地面にぐしゃーのパターン? それもやだわー」「てかどこで?」「家?」「学校?」「誰か見たのかな」「あたしも北高に友達いるから訊いてみようかな」「誰か現場見たならスマホで撮ってるかも」「そんなん見たくねーよ!」「えーあたしは見てみたいな。一生に一度くらいは」「趣味悪!」「あ! 北高の友達がインスタに上げてる!」「え⁉ 死体の写真⁉」「そんなわけないじゃん! 文字だけだよ。追悼っていうの?」

 蘭音を中心に、教室には異様な空気が漂っていた。

 みんなは神妙に眉をひそめながら、それでも口元はわずかに弧を描いている。好奇心を隠しきれていないぎらぎらとした目は、まるで息絶えた獲物に群がる獣のようだった。

 なにこれ。おかしい。こんなのまるでお祭り騒ぎだ。

 今にも雨を落としてきそうな鉛色の空も、身体にまとわりつく湿気も、この異様な空気をさらに深化させているようだった。

「でもさー、弱くない? たいした理由もないのに死ぬなんてさ。みんな悩みくらいあるじゃん。辛いのは自分だけだとでも思ったのかな」