教室で話していたときの声音が嘘みたいに、いつものスピーディーな棒読みに戻っている。
 それでも、胸に流れてくる安心感は変わらなかった。

「……そんな都合のいいこと、あるのかな」
「あるよ。絶対。それに自分次第で変えられることもけっこうあるよ」

 時生の言葉って、どうしてこんなにまっすぐ届くんだろう。

「ほんと時生って、意外とポジ……」

 言いかけて、疑問に思った。
 意外、なんだろうか。時生のふとした一面に触れる度に意外だと思っていたけれど、そもそも私は意外だと思うほど時生のことを知っているのだろうか。

 そんなはずない。まともに話したことのなかった相手を知っているはずがない。つまり私は、時生の外見だけで勝手にイメージを作り上げていたのかもしれない。
 ──私も、蘭音たちと変わらないじゃん。

「時生って、なんかすごいね。ほんとは十歳くらいサバ呼んでない?」
「なにそれ」
「だって、達観してるっていうか、視野が広いっていうか」
「悲観したくないんだよ。こんな世界だからとか、自分なんかって。前はそうだったけど、もうそういうのやめた」

 正直こういう人って苦手だった。ポジティブの押し売りみたいで。
 だけど、そう考えるようにしているのかもしれない。
 自分自身だったり目の前の景色だったり、なにかしらを変えるために、前向きに考えるようにしているのかもしれない。

「……私も、変われるかな」

 無意識に出た台詞だった。
 卒業までこのまま過ごしていくのだと諦めていたのに、ごく自然にその台詞が出た。

「変わりたいの?」

 時生はいつもより少しだけ目を開いていた。
 自分が言った言葉に戸惑いながら、わずかに首肯する。

「変われるよ。変わりたいと思うならきっと変われる」

 すると時生は目線を上に投げて三秒ほど停止し、名案が思いついたみたいに再び私を見た。

「背、けっこう高いよね」
「あ、うん、女子の中では高い方かも。一六〇ちょっとあるし」

 急にめちゃくちゃ話が変わったことは突っ込まずに答える。

「もっとちっちゃく見えるよね」