時生は今日も空を見上げたまま静かに話を聞いてくれていた。

「辛かったよね」
「うん……そうだね」
「思い出すのも辛いよね」
「うん……」
「話してくれてありがとう。聞かなかったらなにも知らないままだった」

 時生は小六の頃の話をしたときも「ありがとう」と言った。話してくれて嬉しかった、とも。
 どうしてそう言ってくれるんだろう、どういう意味で言ってるんだろう。

 真意を考えていたら、急に「ずっ」と洟を啜る音が聞こえた。
 ぎょっとして時生を見れば、

「また泣いてる……」
「泣いてない」

 相変わらず頑固だけれど、時生の目は薄闇の中でも一目瞭然なほど真っ赤だった。
 前回と同じように、唇を真一文字に結んで天を仰ぎ、眉間から鼻にかけてしわを刻んで、必死に涙を堪えている。

「うん、そうだね、わかった。ごめん。じゃあ、えっと……もしかして同情してくれてるの?」

 時生の意地を最大限に考慮して言葉を選んだ。
 人の話を聞いて涙を流すタイプには見えないものの、実は意外とめちゃくちゃ感受性が豊かなのだろうか。

「違う。同情ではない」

 じゃあどうして泣くんだろう。前回も今回も、時生の涙の理由がわからない。
 もしかしたら嫌なことを思い出させてしまったのかもしれない。
 私と同じように、過去に辛い出来事があったのかもしれない。

「……ねえ。なんで生きてるんだろうとか、生きる意味とか理由ってなんだろうとか、考えたことある?」
「あるよ」

 やっぱり辛い記憶があるんだ。
 時生はもう一度ずずっと洟を啜って、私と目を合わせた。

「私、全然わからないんだ。前にね、テレビかなんかで、明日はいいことあるかもとか、生きる理由はその程度でいいんだって見たことあるけど……そんなのとっくに打ち砕かれちゃったよ。粉々になった。だって毎日同じことの繰り返しだもん」
「俺もそう思ってた時期がある。けど、全く同じ日なんてたぶんないんだよ。人生はなにが起こるかわからないってよく言うじゃん。明日なにが起きるかすら絶対わからないじゃん。たった一日で、その……状況が変わっちゃったなら、逆のパターンだってある」