翌週の朝、教室のドアを開けた瞬間に全てを悟った。私はまたしてもターゲットになったのだと。

 あの頃よりも嫌がらせは悪化していた。
 まずは外見を徹底的に批判されることから始まった。髪が伸びていたからあだ名は再び「貞子」に戻った。
 次第に私物を隠されるようになった。教科書やノートを数ページ破られた。宿題などの提出物を盗まれた。

 教科書や机に落書きされたり制服や体操服を切り裂かれたり、そこまでされたら先生に告げ口できたのに、全体的に〝私のドジ〟で済まされてしまうレベルの実に巧妙な手口だった。年齢が上がれば知恵が身につくのは当然のことだった。
 読書を始めたのもこの頃だった。今思えば、違う世界を見てみたくなったのだと思う。いわゆる現実逃避だったのかもしれない。

 仲良くしていた子たちまで、気まずそうに顔を伏せながらもここぞとばかりに私から離れていった。私はまたひとりぼっちになった。自信なんか塵みたいに吹き飛んで、心が折れるまでに時間はかからなかった。

 元クラスメイトたちとの仲は変わらなかった。教室の外に出れば友達がいた。だけどそんなの、学校生活では無意味だとすぐに気づいた。一日の大半を過ごすのは教室なのだから。

 階段をおりているときに後ろから押されて転げ落ちたことがあった。このときばかりは走馬灯が見えた。頭を打って気絶したし、おでこを五針縫う怪我を負った。当時の記憶が混濁しているのはそのせいもあるかもしれない。
 あれは間違いなく故意だった。被害妄想じゃない。階段から落ちていくとき、数人の男の子たちと、その後ろに立っていたリサが見えた。彼等は悪魔みたいに微笑んでいた。紛うことなき〝悪意〟を見た。思い出すだけで吐き気がする。

 さすがに命の危険を感じた。このままじゃいつか殺されると本気で思った。だから、後ろから押されたと先生に訴えた。先生にチクったらもっとひどい目に遭うとか、もうそんなことは言っていられなかった。
 それに巧妙な手口を使ってくるということは、親バレも先生バレもNGということだ。明るみになってまで手は下してこないだろう。なにより殺されるよりまし。命が一番大事に決まっている。