高校から神社までの道を並んで歩いた。
時刻は十七時になろうとしている。いつの間にか陽が落ちるのが遅くなっていた。青空と夕焼けの間みたいな、やけに中途半端な空だった。
「ふぉわっ」
急に頓狂な声を出した時生が視界からいなくなった。振り向けば、ところどころ糸が切れたマリオネットみたいに変な体勢で転んでいた。
どうやら向かい側から歩いてきた男の人とぶつかったらしい。
「時生! 大丈夫⁉」
時生を転ばせた男の人は、謝るどころか見向きすらせずにさっさと歩いていった。
かあっと頭に血が昇る。なんて奴だ。
「ちょっと──」
「いいから。大丈夫。俺がよけて勝手にコケただけ。別に怪我したわけでもないし」
「いいわけないじゃん! 時生も時生だよ。なんでずっとポケットに手入れてるの? 危ないでしょ」
「……寒いし」
体脂肪率五%くらいしかなさそうだし、見るからに寒がりっぽいけど。
そういえば、時生が学ランを脱いでいるところを見たことがない。昼間どれだけ教室に熱気がこもっても、みんなが上着を脱いでいても。
廊下側の席だから寒いのかもしれないけど、だったらわざわざ廊下側に移動なんてしなきゃよかったのに。
「そ、そうなんだ。……じゃなくて! 私やっぱり言ってくる!」
「いいよほんとに。……はは」
「え」
時生が笑った。目を細めて、口を大きく開けて、初めて、笑った。
「なんでびっくりしてんの」
「だ、だって、時生って笑うんだね……」
「俺いつも笑ってるつもりだったけど」
私には能面顔にしか見えなかったけど。
「そう、だね。うん。……今はなんで笑ったの」
「変わってないなと思って。正義感が強いっていうか」
さも当たり前かのように言うけれど、私には違和感しかない。
時生はたまに、よくわからないことを言う。いちいち気にしていたら負けだとは思うけれど、さすがに受け流せなかった。
「変わってないって……私たち、知り合ってまだ一ヶ月くらいだよね?」
時生は目を見張った。薄く開いた唇からはなにもこぼさずに、真一文字に結んだ。
くるりと私に背中を向けて、またすたすたと歩いていった。