一年のときは違うクラスだったし、どこの中学に通っていたのかも知らないし、時生の交友関係は未知だ。

「時生って、他のクラスとか他校に友達いるの?」
「いないけど」

 いないのかよ。

「友達いなくて平気なの?」
「うん」

 信じられない。
 ひとりになりたくない。私はいつだってそれだけを考えて過ごしてきた。

 時生の世界には友達が必要ないんだろうか。他になにか夢中になれるようなことがあるんだろうか。世界は広いとか言ってたくらいだし。

「……時生は、強いね」

 そうか。時生は自分の世界をちゃんと持ってるんだ。
 だからクラスでどれだけ浮いていても平気な顔していられるんだ。
 ──私とは違うんだ。

「ほんとに友達なの、とか言ってたけど。……時生にはわかんないよ。ちゃんと自分の世界があって、ひとりでも平気で、蘭音たちにどれだけ敵視されても涼しい顔して。私の気持ちなんて、時生にわかるはずない」

 急になにを言い出すんだと自分でも思う。完全なる八つ当たりだった。
 絶対に呆れられた。もう終わりだ。またひとり失ってしまう。
 すぐに自責の念に駆られたものの、自業自得だと言い聞かせた。

「わかんないよ。誰がなにを考えてるかなんてわかるわけない」

 去っていく時生の背中を見たくなくて、両手を握り締めて、日誌に目線を落とした。引き留める権利なんてない。
 けれど時生が動く気配はない。

「だからちゃんと教えてよ。なにを考えてるのか、嬉しいのか悲しいのか、どんな言葉に傷つくのか、ちゃんと教えてよ。俺だって俺なりに考えてるけど、人の気持ちを想像だけで全部汲み取るなんて到底できるわけない。お願いだから、ちゃんと教えてよ」

 棒読みなんかじゃなかった。
 時生の声音は、信じられないほど優しかった。
 ゆっくりと顔を上げると、いつもと変わらず無表情の時生がいた。

「だから嬉しいよ。誰の前でもずっと笑ってるのに、こうして俺に感情ぶつけてくれることが嬉しい」

 言葉が出てこなかった。
 声を出したら、なにかが一緒にこぼれてしまいそうだった。

 ふたりの間に沈黙が落ちる。
 身体が小刻みに震えていることを自覚し、一度、二度、三度、ゆっくりと呼吸をした。
 私が落ち着いたのを見計らったように、時生がゆらりと立ち上がった。

「神社行こうよ」