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〈四月二十五日(月)日直 森杉・山田/欠席 酒井〉
笑っていた。バカみたいに笑っていた。
親友を裏切って、親に突き放されて、どう考えても最悪な状況なのに、不思議ともう辛くはなかった。
いい加減、心から諦めがついたのだろうか。あるいは慣れたのだろうか。
そうかもしれない。人間は慣れる生き物だというし。
へらへらしながら一日を過ごし、放課後の教室で日誌と睨めっこしていた。言わずもがな日直の仕事である。ただし今日は押し付けられたわけじゃなく、公平に順番が回ってきただけ──と言いたいところだけれど、茜に押し付けられただけ。
「ごめん、遅れた」
待ち合わせをしていたみたいな台詞を吐いて教室に入ってきたのは時生だった。
両手をポケットに入れたまますたすたと歩き、私の前の席に座った。
少し前にもこんなことがあった気がする。
「なんで時生がいるの。山田くんは?」
「自分だって日直じゃないじゃん」
「私は……茜が体調悪いって言うから代わっただけだよ」
めちゃくちゃ元気そうだったけど。
「俺も代わってもらった」
「は?」
誰もが忌み嫌っている日直を自ら志願するとは。
「俺のこと避けるから」
「……別に、避けてなんか」
「LINE無視するし、神社にも来なかった」
さすがに言い訳が通用しないほどあからさますぎた。
「避けてたよ。そうだよ、めっちゃ避けてたよ。わかってるならほっといてよ。てか避けられたら普通避けるでしょ」
「避けられたら避けなきゃだめなの? 理由もわかんないのに」
「理由なんて考えたらいくらでも思い当たるじゃん。てか普通、考えなくたって、なんかしたのかとか嫌われたのとか思うじゃん」
「訊かなきゃわかんないじゃん。勝手に想像して決めつけて落ち込んで無駄な時間過ごすなんて、俺はもう嫌だ。時間がもったいない」
時生ってたまに、急に饒舌になるからびっくりする。
前にも似たようなことを言っていた気がする。無駄なことしてる時間ない、とかなんとか。
どういう意味なんだろう。プライベートが忙しいということだろうか。
もしかすると他クラスや他校に友達がたくさんいるのかもしれない。考えてみれば、時生はけっこういい奴だ。言葉足らずだしとんでもなく話は噛み合わないしものすんごく変わってるけど、普通にいい奴。