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〈四月十四日(木)日直 塚崎・時生/欠席 吉川〉
「今日あたし日直なんだけどー。しかもあいつと。まじやってらんない」
教室に入ってくるなり蘭音が言った。
肩にかけていた指定外の鞄を投げるように机に置いて、どかっと椅子に座ると、下着が見えそうなくらい短いスカートから伸びた細長い足をクロスさせた。
目鼻立ちがはっきりした綺麗な顔を怪訝そうに歪めながら、明るく染められている長い巻き髪を指先で弄ぶ。その指先には、ストーンが散りばめられた薄紫色のネイルが施されている。
いつもながら、まるで校則違反のお手本みたいだ、と思う。
かくいう私も、きっちり校則を守っているわけではないのだけど。
うちの高校の制服は恐ろしく地味だ。濃紺の無地のジャケットとスカート。えんじ色の紐リボン。ちょっとくらい気崩さなければ、ひたすらださくて田舎臭いだけの制服なのだ。
だからスカート丈を膝上十五センチにして、いつメンの女子チームでお揃いで買った市販のリボンをつけて、ついでに申し訳程度にメイクをするくらいのささやかな違反はしている。
なにより、そうしなければこのグループにはいられない。
「めんどいよねー。日直なんか委員長が毎日やればよくね?」
蘭音の隣の席に座った茜が、ぷっくりした唇と頬を動かしてすぐさま反応した。まるで蘭音の口からなにかしらの文句が出るのを待ち構えていたみたいに。
厚めの一重まぶたに濃いブラウンのアイシャドウを塗っているせいで、余計に腫れぼったく見える。その目をさらに細めながら、セルフネイルが施されている指先でショートカットの髪をいじる。明るい色に染められた髪を。
「なんのための委員長だよって感じ」
茜が付け足すと、蘭音は満足したように「ほんとそれー」と手を叩いて大笑いした。決して上品とは言えない笑い声が教室に響き渡る。
これはなんの変哲もない朝の風景だった。
蘭音の口から愚痴以外が出てくることはほとんどない気がする。「日直が嫌」程度ならまだまだ可愛い方。
うざい。嫌い。死ねばいいのに。
これが蘭音の口癖トップ3。
語尾を伸ばす独特な喋り方とアイドルみたいな甘い声からは想像もつかないほどの暴言を刃に変えて振り回す。
「美桜? 聞いてるー?」
「あ、ああ、うん。ほんと嫌だよね」