正門が見えてきたとき、そこには時生と永倉くんが立っていた。
登校中にクラスメイトに会えば話をする。ごく当たり前のことなのに少し戸惑ったのは、永倉くんの顔がやけに深刻そうに見えたから。
困惑しながら歩いていく。
「お前大丈夫か?」
「大丈夫だよ。永倉が心配することじゃない」
「心配するだろ。あんまり無茶すんな」
口ぶりもやはり深刻そうな永倉くんと、超棒読みの時生。
温度差が激しいふたりを呆然と見ていると、私に気づいた永倉くんが「あ」と声を上げた。
「おはよ」
瞬時に笑顔を作り、白い歯を覗かせる。
「おはよ。あれ? 永倉くん、なんで手ぶらなの?」
顔が赤くなっていることを自覚しながら、せめて声だけはなるべく平然を装って言った。無意味だとは思うけど。
永倉くんの手にも肩にも鞄がかかっていない。
「俺今日休むんだよ。担任に伝えに来ただけ。じゃあな」
電話じゃなくて直接言いに来るなんて、なにかあったのだろうか。
訊く間もなく、永倉くんは私と時生に手を振ってさっさと歩いていってしまった。
「なに話してたの?」
「なんか心配された」
内容を訊いてるんだけど。
思い当たる節はただひとつ、蘭音たちの言動についてだ。
永倉くんはそういう人だ。マイペースに見えて、実は周囲をよく観察してさりげなく気を配る。
どこまでもかっこいい。両手をポケットに入れて歩く姿もさまになっているし、最近は特につい後ろ姿を目で追ってしまうようになった。
永倉くんを見送って向け直せば、時生も両手をポケットに収納していた。同じポーズなのに、なんなら背格好もわりと似てるのに、時生がやるとなんか違和感がある。
「あ、じゃあ、また教室でね」
「俺も同じ教室行くけど」
そりゃそうだ。
「ていうか待ってた」
踏み出そうとした足が止まる。
「誰を? ……まさか私?」
「うん」
「え? なんで?」
「会えるときに会わないと」
時生ってなに考えてるんだろう。どういうつもりでこういうこと言うんだろう。
──一番可愛いと思ってるから。
その台詞が、声が、脳裏をかすめた。冷えていた身体が太陽の熱を吸収したみたいに熱くなった。
目を逸らして、止めていた足を交互に動かした。時生はまるで当たり前みたいに私の隣を歩く。いや、同じクラスなのだから同じ方向を歩くのは当たり前なのだけど。
「……別に待ってなくたって、どうせ教室で会えるじゃん」
「そんなのわかんないじゃん。もしかしたら会えないかも」
「なに言ってるの。会えるに決まってるじゃん。同じクラスなんだから、嫌でも会わなきゃいけないんだよ」
「もしかしたら、どっちかが学校行く途中に……事故に遭うかもしれないじゃん」
確かにその可能性がないとは言い切れない。
だけど極端すぎると思うし、ゼロか百かみたいな考え方だな。
「大げさだよ」
「大げさじゃないよ。会いたいときに絶対会える保証なんてどこにもない。それに俺、無駄なことしてる時間ないから」
時生はよくわからないことを言う。
なんて返せばいいのかわからなくて、「そうだね」とだけ言って歩き進めた。
時生も、それ以上は喋らなかった。