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〈003:ノウゼンカズラ@HOME 20XX/08/31(X) 18:13
チャンスはすぐに訪れた。
授業が終わったあと、彼女は教室に一人で真剣な顔でノートに何かを書いてた。
話しかける以外の選択肢はなかった。自分から積極的に人と関わるタイプではなかったけど、それでも幸い声をかけられる方だったから話すこと自体は別に苦じゃなかったし、人見知りもしない方だし。
後ろから声をかけた。普通に「何してんの?」とかだったと思う。すると彼女は少し大げさなくらい跳ねて、ノートを閉じて顔を上げた。
聞けば、授業の復習をしてたらしかった。真面目さにびっくりした。
声も喋り方も、思い描いてたイメージそのものだった。
一言一言交わす毎に好きになっていくのがわかった。
お互い自己紹介をしたとき、俺の名前を聞いた彼女の顔がぱっと華やいだ。
あのときの彼女の笑顔も、言った言葉も、今でもはっきり覚えてる。
「同じだ。花の名前だね」
そのときは自分の名前が花の名前なんて知らなかったからそう言ったら、彼女は黒板に漢字を書いて、その横にふりがなを振った。
綺麗な字だと思った。俺は字が下手だから余計に。
「同じ季節の花だよ。なんか嬉しいね」
夏の間、俺はもっともっと彼女を好きになるだろう。
そんな予感が恍惚してる頭に浮かんだ。〉
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