時生はいつもこんな喋り方だ。こんなに長く喋るところは初めて見たものの、ひと言ふた言話すときもこんな感じ。AIの方がまだ感情がこもっていそうなくらいの棒読み。

 なのに今、その声が、その言葉が、妙に刺さる。

 たくさんの言葉が喉でうごめいている。生ぬるいなにかが込み上げて、それは鼻の奥をつんと刺激し、目頭に留まった。

 気持ち悪い。
 このドロドロした液体を全部吐き出してしまいたい。
 だけどそんなことできない。私はこうして無理にでも笑うことしかできない。

 そうだ、雨が降ってくれたらいい。そしたらたとえふいにこぼれてしまったとしても、隠してもらえるかもしれないのに。
 そうでもしなければ吐き出すことなんかできない。吐き出した瞬間に全部が崩れてしまいそうで、立っていられなくなりそうで、怖い。

 目を逸らせずにいると、時生は額やこめかみから流れている汗を学ランの袖で拭った。
 よく見れば、時生の手が、肩が、小刻みに震えていた。

「ねえ、大丈夫? すごい汗……」
「ここじゃ話しにくいから場所変えよう」
「え?」
「ちょうど荷物持ってきてるじゃん。このまま帰ろう」
「ちょっと待って。まだみんなカラオケにいるし……」
「大丈夫。ここから三十分もかからない」

 とんでもなく話が噛み合わない。
 もしかして私の声聞こえてないのかな。

「いいから行こう」

 時生は私の腕を掴んですたすたと歩き出した。
 服越しに手の感触がはっきりと伝わってくる。
 長い指は骨みたいに細い。だけど関節が太くて、大きくて、頼りなさは感じなかった。

 今日はつられたわけじゃなかった。間違いなく自分の意志でついていった。
 たぶん気になってしまったのだと思う。
 時生が今度はどこに連れていってくれるのか。
 だって時生は、変な奴だから。