「いいよ別に。そんなことどうでもいい。そもそもあんなゲームするのがおかしいだろ。しかもあんな風に言われて傷ついたんじゃないの。なんで笑ってんの」
時生は無表情のまま淡々と言葉を吐いていた。
黒縁眼鏡の奥にある双眸は、まっすぐに私に向けられていた。
普通としか形容しがたい目なのに、金縛りに遭ったみたいに動けない。
なにこれ。時生ってこんなこと言う人だったの?
「なんで、って」
だってそれが私の役割であり〝キャラ〟だから。
笑うしかない。怒ったりしたら、泣いたりしたら、傷ついたなんて言ったら、冗談の通じない面倒な奴だと白い目で見られるだけ。だから与えられた役割を遂行しなければいけない。
「……別に、慣れてるし。てかあんなの単なる遊びなんだから、適当に受け流しとけば……」
だめだ。声が震える。
寒さのせいだと言い訳するように、わざとらしく二の腕をさすった。
「傷つかないわけない。現に今、追い詰められた顔してこんなとこに立ってたじゃん」
「それは……別に、なんとなく外見てただけで……」
「傷つくことに慣れたらだめだよ。怪我はほっといたら化膿する。ほんとに傷ついてないなら、それはただ心が麻痺してるだけだよ」
冷え切った風が、時生のぼさぼさの髪を静かに揺らした。
違うよ。違うんだよ、時生。
慣れなきゃだめなんだよ。無理にでも麻痺させるしかないんだよ。
だってそうしなければ〝ここ〟にはいられない。
さっきの出来事なんて、今頃はもう彼等の頭にはからきし残っていない。なぜなら私が傷ついたなんて、自分たちが人を傷つけているなんて、そもそも思っていないからだ。ちょっとしたパフォーマンスくらいのつもりなのだろう。
私にトップバッターを押し付けるのもそう、彼等にとっては漫才の前説よろしく、場を温めるための余興に過ぎない。
傷つけた方は気にしてない。すぐに忘れてしまう。
そんなもんなんだよ、時生。
「……あ、はは。なんか意外だね。時生ってそういうこと言うんだ。でも大丈夫だよ。私、笑ってるじゃん。ほんと気にしなくていいから。優しいんだね」
「いつも笑ってる人が必ずしも幸せだとは限らない。大丈夫って言う人が本当に大丈夫かもわからない」
ほとんど抑揚をつけずに早口で言う。