「じゃあ、いっせーので指さそうぜ」

 部屋に戻れば、ずっと大音量で流れ続けていた音楽は止み、みんなソファーに腰かけていた。
 そのままお開きになりそうなら万々歳なのに、代わりに不穏なゲームが始まろうとしているらしい。

「あ、美桜ー! どこ行ってたの? ちょっと聞いてよー。男子がなんか変なこと言い出してるんだけどー」

 ドアを開けたまま硬直していた私に蘭音が手招きをする。

「ちょっと友達から電話きて、外で話してて……」

 言いながらドアを閉めて蘭音の隣に座った。

「一番タイプの女子は誰だーとか言い出してさあ。なんか嫌だよねえ、こういうの」

 不穏どころの騒ぎじゃなかった。
 待て待て待て。なんだそのデスゲームは。

 蘭音は呆れたような、困ったような表情を作ってはいるものの、口元が緩むのを抑えきれていない。
 男の子たちの大半が自分を選ぶことをわかっているからだ。

「いいじゃんいいじゃん。みんなもう決まってるよな? いっせーの!」

 男の子たちがかけ声通り一斉に指をさし、それぞれ彼女やお気に入りの女の子を──主に蘭音を──指さした。
 私を選ぶ人はもちろんいない。

「おい! 誰か美桜選んでやれよ!」

 誰かが叫ぶと、大爆笑が巻き起こった。文字通りの爆発的な大笑い。
 怒ってはいけない。悲しんではいけない。こんなのはいつものこと。
 みんながお腹を抱えながらひとしきり笑った頃、

「おい、時生! お前もちゃんとやれよ!」

 取り巻きトリオのひとりが言った。
 へ、と間の抜けた声が漏れる。
 みんなの視線を追うと、部屋の隅にはまるで座敷童みたいにぽつんと座っている時生がいた。

 時生も来てたんだ。全然気づかなかった。いくらなんでも存在感がなさすぎる。いや、もしかすると私が部屋を出ている間に来たのかもしれない。
 咲葵や永倉くんが誘っていたのだろうか。だとしても大勢でカラオケなんて断りそうなのに。誘われたからには顔を出すという最低限の社交性は持ち合わせているのだろうか。

「空気読めよー。まじで白けるわー」

 どうしていちいち構うんだろう。ほっとけばいいのに。
 ああ、そうか。そういうことか。
 時生にチャンスをあげようとしてるんだ。今ここで空気を読んで蘭音を指させば、あの日のことは帳消しにしてあげる、というチャンス。リベンジと言ってもいい。

 意外にも「わかった」とあっさり受け入れた時生はすぐに右手を上げた。