だからこそ、咲葵が自分の意見を貫く度に私の身体は強張る。
「美桜も一緒に帰らない?」
「どうしよう。まだ盛り上がってるからなあ」
「そっか……」
咲葵は長いまつげを伏せた。
「なんかあった?」
「あのね、実はずっと前から美桜に話したいことがあって」
もじもじしている咲葵は、はにかむようにも戸惑うようにも見えた。こんな咲葵は初めてだ。
しばし逡巡したのち、咲葵は意を決したように顔を上げた。
「もったいぶるのも嫌だし、ここで言っちゃうね。……わたし、永倉くんが好きなの」
全身の熱がひんやりとした風に吸収されていく。
「美桜には言っておきたいな、と思って。でもほら、最近ふたりになることってあんまりなかったから、なかなか言い出せなくて」
「……そう、なんだ」
咲葵が永倉くんのことを好きだったなんて、今の今まで全然気づかなかった。
こうして私に打ち明けてきたということは、近々告白するつもりなのかもしれない。
そうか。ふたりは両想いなんだ。
永倉くんも咲葵のことが好きだ。それは誰から見ても一目瞭然だった。
そう、わかっていた。永倉くんが庇っているのは、私じゃなく咲葵だと。
「……うん、応援するよ。咲葵と永倉くんなんて、超お似合いじゃん」
咲葵との友達歴は丸四年になる。
仲良くなったきっかけは中一の春、私がクラス委員長で咲葵が書記になったことだった。自然と話す機会は多かったし、次第にお互いのプライベートについても話すようになり、名前や家庭環境に共通点があったおかげですぐに打ち解けた。それからこの四年間、私たちはたくさん話をしてきた。
だけど恋愛の話はほとんどしたことがない。だから好きな人がいるなんて聞いたのは初めてだ。
「でも、ちょっとびっくりしちゃった。咲葵からそういう話聞いたことなかったから」
「うん。男の子ってちょっと苦手だったし」
「そうだったんだ。知らなかった」
言うと、咲葵は戸惑うように瞳を揺らした。
「美桜もそういう話したことないよね」
「まあ……うん」
「ねえ、美桜って──」
「咲葵と、美桜? なにしてんの?」
絶妙なタイミングで現れたのは永倉くんだった。
「え、な、なんで? どうしたの?」
咲葵が目に見えて動揺している姿を初めて見た。