放課後、カラオケに行こうと提案したのは茜だった。
四人で行くのかと思ったら、茜はクラスの子たちに次々と声をかけていった。そしてまた誰かが誰かに声をかける。金曜日ということもあって参加者はみるみる増えていき、結局クラスのほとんどが参加することになった。
ぞろぞろと地下鉄で市街地まで移動し、大通にある四階建ての雑居ビルに入った。ここは三階と四階がカラオケ店になっている。
こうして大勢で集まるときはお決まりの流れがある。
トップバッターは私。立候補したわけじゃない。押し付けられる理由はふたつ、私は歌が下手だから。そして〝いじられキャラ〟だから。
歌わなくていいなら歌いたくない。だけど断固拒否なんてしようものなら「ノリが悪い」「空気読め」「白ける」と罵られ、場の雰囲気も私の評価も地に落ちる。
歌い終えて次の人にマイクを渡し、誰よりも笑い転げていた蘭音の隣に座った。目尻に涙すら浮かべている。
「ねえ、やばいってー! ほんと美桜のキャラ最高ー! 羨ましいよー」
なにを言ってるんだろう。得なんてなにひとつない。
そもそも私がいつキャラなんて作ったというのか。
美人で女王様の蘭音。可愛くておっとりしている咲葵。ちょっと男勝りで毒舌の茜。お調子者の取り巻きトリオ。クールな永倉くん。余っていたいじられキャラを勝手に押し付けられたに過ぎない。
「あはは、そうかなあ」
目を細めて口角を上げた。
ひと通りみんな歌い、ひと通り盛り上がる曲を終える頃には二時間が経っていた。
ぐったりした心身をソファーに預けて、蘭音が歌うバラードに聴き入っているふりをしながら、文字と映像が流れる画面をぼうっと観ていた。
学生フリータイムは二十時までだから、あと二時間ある。どうやって時間を潰そうか──と思考を巡らせていると、ポケットでスマホが震えた。長さからして電話だ。
助かった。席を立つ理由ができる。
廊下は各部屋から音がだだ洩れで、落ち着いて電話ができそうにない。階段を降りて雑居ビルの外に出ると、冷えた風が身体を覆った。脱いだカーディガンを部屋に置きっぱなしにして来たことを少し後悔した。