明けない夜はない。そんなことはわかっている。
 どんなに願っても、祈っても、生きている限り必ず朝は来てしまうのだ。

 リビングにはまだ誰もいなかった。これもいつものこと。朝ご飯を作るのも、いつからか私の仕事になっている。
 食パンを四枚トースターにセットして、その間に卵とウィンナーを焼いて、カップにコーンスープとコーヒーの粉をそれぞれ入れてお湯を注ぐ。焼き上がったトーストを取り出し、二枚はいちごジャムを、二枚はバターを塗ってテーブルに並べる。

 自分のパンを口に運ぼうとしたタイミングで、半べそをかいている蒼葉と葉月、そして寝不足ですと顔に書いてあるお母さんが起きてきた。

 三人の様子を見ただけで、昨日は子供たちの寝つきが悪かったのか、あるいは夜泣きがひどかったのだと容易に想像できた。つまり、今日もお母さんの機嫌は悪い。
 まだ少しぐずっている蒼葉と葉月にパンを食べさせる。横目でお母さんを見ると、私たちに目もくれず、朝のニュースを流し見しながら熱々のコーヒーを啜っていた。

 パートに行くまでの時間くらいゆっくりしたいのだろう。
 わかってる。わかってるけど、

 ──私だって、朝ご飯くらいゆっくり食べたいのに。

 否応なく浮かんでくる文句と冷めたパンを、冷めたコーンスープで流し込んだ。

 食べ終えるとすぐに鞄を持って、文字通り逃げるようにリビングを出た。背中に突き刺さるお母さんの視線とため息は気づかないふりをした。誰もいない玄関でローファーを履き、家を出た。
「いってきます」は言わない。「いってらっしゃい」を待つこともない。言ったところで返ってこないし、待ったところで言われない。

 空がどんなに青々としていても、開放感は微塵もない。むしろ憂鬱はさらに重く圧し掛かる。今日もまた呼吸さえままならない空間で一日の大半を過ごすのか、と。
 陰鬱な気分を少しでも軽減させたくて、いつもより深く息を吐いた。