やっと自室に入れたのは二十三時を過ぎた頃だった。
 くずおれるようにベッドに倒れ込んだ。

 やっと自分の時間ができた──といっても、もう宿題をする気力も、サイドテーブルに積みっぱなしの本を読む気力も残っていない。
 もともと読書が好きだったわけではないけれど、中三の頃から読むようになった。それまではスマホばかりで読書なんて無縁だったのに。

 学校帰りになんとなく立ち寄った書店には、恋愛やらミステリやらホラーやら、様々なジャンルの本が並んでいた。その中から選んだのは異世界転生もののファンタジーだった。特にファンタジーが好きなわけでもないのに、迷わずそれを手に取った。

 久しぶりに読書に没頭したい気持ちはある。だけど今読んでも頭に入ってこない気がする。それどころか手を伸ばして電気を消すことすらも重労働に感じる。
 追い打ちをかけるようにスマホが鳴った。見れば、すでにおびただしい量のLINEの通知が来ていた。

 さて、今日はどっちだろう。
 いつメンの女子チームだけで作った『あかのみさき』か、男子チームも入っている『2Dいつメン』か。
 開いてみると後者だった。がっくりする。八人もいるわけだから(咲葵と永倉くんはほとんど発信しないから、実質六人だけれど)しばらく通知が鳴り止むことはない。

 眠い。今すぐ眠ってしまいたい。もう指一本さえ動かしたくない。そう思いながらも目をこする。せめてひと言だけでも発信しなければいけない。さらにSNSを開いて、蘭音や茜の投稿にせめて『いいね』を押さなければいけない。

 うんざりする。
 実のない話が延々続くグループトーク。
 自己顕示欲と承認欲求を満たすためのSNS。

 なにも考えずに深い深い眠りにつけたなら、楽しい夢を見られたならどんなにいいだろう。
 そう思うのに、ぽんぽんと浮かぶ吹き出しを見ているだけで、明日も学校だと考えただけで、胃がきりきりと痛んでくる。
 きっと今日も安眠とは程遠い、ただ目を閉じて朝を待つだけの時間を過ごすことになる。もちろん眠ってはいるのだけれど、最近は寝つきが悪い上に夜中に何度か起きてしまう。だからどうも寝た気がしない。

 それでも容赦なく朝はやってくる。
 また一日が始まっていく。
 ひとつだけ願いが叶うのなら、明けない夜がほしい──。