どうしようもなく恥ずかしかった。時生にそんなことを言わせてしまったことも、すぐに否定できないことも。
もしかして放課後まで姿を現さなかったのも同じ理由なのだろうか。私に気を遣って、教室に誰もいなくなるまで、どこかで待っていてくれたのだろうか。
またもや意外だった。時生がそんな気遣いをするタイプには見えない。
「別に、そんなこと……」
さっきからちょっと変だ。なぜか時生の前では、いつもみたいにするすると言葉が出てこない。嘘がつけない。時生がいちいち予想を裏切るから、いちいち喉がつかえてしまう。
時生の言動が謎すぎるせいで──調子が狂う。
そんなことないよ、とは言えなかった。たとえ日直の仕事という理由があろうと、時生と一緒にいるところなんて見られたくなかった。だって、あとからネタにされて散々からかわれることは目に見えている。
私は彼等に便乗するほど残酷にはなれないし、時生を庇うほど勇敢にもなれない。
誰よりも中途半端なのは私だ。
「……時生がいいなら、来ようかな」
「うん。でも来るときは絶対に俺も呼んで。だいたいいるけど」
「勝手に荒らすなってこと?」
「そうじゃなくて。ひとりにならないで」
「どういう意味?」
「いいから。約束して」
再び時生に目を向けると、いつの間にか私の方を見ていた。いつもの無表情のまま。
だけど眼鏡の奥にある瞳が、一瞬だけ揺れたように見えた。
「……うん。わかった」
三十分もいなかった。特に話という話はしなかった。
不思議と心が浄化されたような気がした。神社という聖域がそうさせてくれたのだろうか。
「私もう帰らないと」
立ち上がると、時生は座ったまま私を見上げていた。
どうしたの、と私が問うよりもやや早く、時生の唇が薄く開いた。
「……タイムカプセル」
「え?」
「埋めた? 一年のとき」
あまりにも唐突すぎる質問に驚きながらも「う、うん」と返す。
うちの高校は、一年の修了式の日にタイムカプセルを埋める。お題は『十年後の自分への手紙』というありきたりなもの。十年後に同窓会を開き、そのタイミングで掘り返すというのが創立以来の伝統だそうだ。
最初こそみんな「昭和かよ」とかおちょくっていたのに、意外と盛り上がったことを思い出す。私はタイムカプセルにも十年後の自分にも興味がなかったから、まだ一ヶ月と経っていないのにすっかり忘れていた。
「埋めたよ。時生のクラスもやったよね?」
「うん」
「なんでそんなこと訊くの?」
「……ううん。帰るならLINE交換しよう」
また強制終了?
コミュ障を通り越してもはや自己中の極みにすら思えてくる。
「いいけど。時生もLINEやってるんだね」
「連絡とる相手ひとりしかいないけど」
微妙に突っ込みにくいこと言わないでほしい。
「ここに俺がいなかったら連絡して。他にも、なにかあったときでも、なにもないときでも、いつでも連絡して」
無表情で、超棒読みで、時生はそう言った。
よくわからないけど、変な奴。