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たとえなにを失くしても、たとえ全てを捨ててでも、もう一度君に会いたかった。

どうしても、君に伝えたかったんだ。

君を失くしてから気づいた、君に言えなくなってしまった言葉を。



まずは君に残酷なことを言わなければいけない。

この世界は美しくなんかない。

ひどく過酷な弱肉強食の世界だ。

立ちはだかる差別、逃れられない上下関係。

不平等で、理不尽で、不条理にまみれている。

願いは必ず叶わないし、努力は必ず報われない。

もがき苦しんで、自分じゃどうにもできない壁に幾度となく直面する。

そんな現実を目の当たりにしてばかりの日常に眩暈がする。

この世界は、美しくなんか、ない。



笑顔の仮面が張り付いて、本当の笑顔を失くした夜があっただろう。

膝を抱え、声を押し殺し、人知れず涙を流した夜があっただろう。

明日なんて来なければいいと願った夜があっただろう。

世界を脅かすような雨に怯えた夜があっただろう。

寂しさに蝕まれて、眠れない夜があっただろう。

悔しくて叫びたくなる夜があっただろう。

闇に呑まれて、視界を閉ざされた夜があっただろう。

地球上でひとりぼっちになってしまったように孤独な夜があっただろう。



そんなときは、どうか思い出して。

大切な人の笑顔を。交わしてきた言葉を。共に過ごしてきた時間を。

君は誰よりも知っているはずなんだ。

止まない雨はないことを。明けない夜はないことを。

不明瞭な視界の中を無闇に走る必要はない。

大雨に襲われても、晴れ間は必ずやってくる。

漆黒の闇に包まれても、太陽は必ずのぼる。

いつか必ず光は射す。

そしてほんの少しでも光が見えたら、また一歩だけ踏み出してみてほしい。

それはきっと、大きな大きな一歩に繋がるはずだから。



信じてみようよ。

今いる場所は、決して世界の全てじゃないのだと。

叶う願いはある。報われる努力はある。奇跡は何度でも起きる。

この世界は美しい。そう思える瞬間が、必ず訪れる。

愚かだと嘲られても、綺麗事だと蔑まれても。

バカみたいに、信じていたいんだ。



生きていこうよ。

僕等は絶対にひとりぼっちなんかじゃない。

一緒に泣こう。

一緒に笑おう。

一緒に光を探そう。

この美しくない世界で、もがきながら、一緒に生きていこう。



君がまた暗闇の中に迷い込んでしまいそうなときは、何度でも会いに行くよ。

何度でも手を差し伸べて、何度でも抱き締めるよ。

だから、どうか。

君のいる世界が、これからもずっと、続いていきますように。



END