そう考えれば、最後のピースがはまったみたいに妙にしっくりくる。

「それに、私にだけ蓮が見えてるなんて絶対おかしいじゃん。蓮が何度もここに連れて来てくれたから思い出せたんだよ。きっとそうだよ」

 脳裏に影が浮かぶようになったのも、蓮と背格好が似ていている永倉くんの後ろ姿を目で追うようになったのも、蓮がこの神社に連れて来てくれるようになってからだ。

 蓮が行動を起こしてくれたから、奇跡が起きた。

 私はそう信じたい。

「……こんな曖昧じゃ、信じてもらえないかもしれないけど」

「信じるよ」

 蓮の話を聞いたときの私と同じくらい、蓮が即答した。

「ありがとう。俺のこと忘れないでくれて。……ほんとに奇跡だ」

 泣き腫らした目を合わせて、微笑み合った。

 学ランを掴んでいた手を離し、また感触のない手に触れた。

 もう泣かない。泣きたくない。

 蓮は何度も「美桜は笑っていた」と言っていた。

 だから笑っていたい。蓮が好きだと言ってくれた笑顔を見てほしい。

 泣き顔なんかよりも、笑顔を覚えていてほしい。

「あとね、私も、蓮が好きだよ」

 透明の手を、ぎゅっと握りしめた。

 消えたりしない。なくなったりしない。

 繋いだ手のぬくもりも、まっすぐな瞳も、共に過ごしてきた日々も、私はもう絶対に忘れたりしない。

「俺も美桜が好きだよ。大好きだ。──もっともっと、何度でも言えばよかった」

 もっと早く、言えばよかった。

 これからもずっとそばにいられる。そんな保証がどこにあったのだろう。

 この世界に君がいる。それが当たり前だなんて、どうして思えていたのだろう。

 なにひとつ、当たり前なんかじゃ、なかったのに。

「ねえ、蓮。……また、会えるかな」

「ごめん、わからない」

 きっと会えるよ、とか言わないんだ。どこまでも素直だな。

 だけど私は、そういう蓮だから救われた。

 とんでもなく不器用で、嘘がつけなくて、怖いくらいにまっすぐで。

 そういう蓮だから好きになった。

「でも、たとえ会えなくても、ずっと美桜のことを想ってる。美桜のことが誰よりも大切な気持ちはずっと変わらないから」

 薄闇の中で、桜の花びらが舞う。まるで蓮を包み込んでいるように。

 蓮の姿を、少しずつ、隠していくように。

「前の世界では言えなかったけど──」

 満開だった桜の花びらが、風に弄ばれて散っていく。

 いずれこの美しい景色を思い出せなくなるだろう。

 それでも終わりなんかじゃない。

 夏には夏の花が咲き、秋には秋の花が咲く。

 顔を上げれば、全ての季節に美しい景色が必ずある。

 そして来年になればまた、厳しい冬を乗り越えた桜の花が咲き誇る。

 この街を鮮やかな薄紅色に染めてくれる。

 何度も、何度でも。

「十七歳の誕生日おめでとう、美桜。──産まれてきてくれて、生きていてくれて、ありがとう」