〝強さ〟って、ひとりで生きていけることだと思ってた。なにがあってもくじけずに、背筋を伸ばして、胸を張って、前を向いて、ひとりで歩んでいける人のことだと思ってた。
だけどそうじゃない。そうかもしれないけど、それだけじゃない。なにより私がほしかったのはそういう〝強さ〟だったのだろうか。私はどういう人になりたくて、咲葵のどういうところに憧れていたのだろうか。
ただ、私は。
「……私、優しい人になりたい。強さって、優しさでもあるんじゃないかと思ったから。蓮のおかげで、そう思えるようになったんだよ」
今ならわかる。
小六のときも中三のときも、正義感を振りかざしたかったわけじゃない。ヒーローを気取りたかったわけじゃない。
ただ私は、優しい人間でありたかった。
傷は治せなくても、痛みに気づける人に。
背中を押すことはできなくても、手を差し伸べられる人に。
救うことはできなくても、寄り添える人に。
そういう人になりたかった。
「もちろん、ある程度は自分の足で歩いていける強さもほしい。ものすんごく、時間がかかっちゃうと思うけど」
何度転んでしまったとしても、何度でも立ち上がりたい。
目の前の現実から目を背けてしまっても、また前を向いて歩んでいけると信じたい。
どれだけ時間がかかったとしても、少しずつ〝なりたい自分〟になっていけたらいい。
「美桜なら大丈夫だよ。今だって少しずつ強くなってる。前に進んでる」
「……そう、かな。進めてるのかな」
「そうだよ。前の世界での今日、美桜は母さんとも立花とも喧嘩したままだった。学校にだってずっと来なかった。だけど今の美桜は、立花とちゃんと向き合った。朝、母さんと話をした。学校にだって行った。物語は変わってる。美桜が自分の足で一歩踏み出したから、変わったんだ」
そうだね。そう思いたい。
今の私には、心から信じられる人いる。信じてくれる人がいる。
ひとりなんかじゃなかった。それに気づくきっかけを、もう一度人を信じる勇気を、蓮がくれた。
だから、私は大丈夫だと、また歩いていけると信じたい。
「あっ」
急に蓮が間の抜けた顔で素っ頓狂な声を出した途端、びっくりしてあれだけ止まらなかった涙も一気に引っ込んでしまった。
蓮といるとなんだかいまいち空気が締まらない。
「な、なに?」
「永倉に謝っといて。美桜に全部話しちゃったって」
「……ねえ、今その話?」