時生は私がついてきているかだけちらちらと確認しながら、足は止めずに歩き進めていた。
階段の前で立ち止まり上を向いたと思ったら、三秒ほど停止してから昇降口に向かっていった。
正門を出て、私の母校である中学校を通り過ぎ、私の家とは反対方向に進んでいく。
しばらくすると、真新しい戸建てがぽつぽつと建っている、開拓中らしい住宅地にたどり着いた。奥には川が流れて、さらに奥には田畑が広がっている。
住宅地と田畑の間に、細長い石段が見えた。まるでその石段を隠すみたいに、あるいは守っているみたいに、無数の大きな木が立っていた。
目的地はここだったらしく、時生はその階段をのぼっていった。私も(ちょっとだけ警戒しながら)あとに続いた。
石段の先にあったのは、町内会のお祭りに使われそうな、こじんまりとした無人の神社だった。
傍らにはかなり年季の入った木の看板が立てられている。
「さくらみね、神社?」
「桜峰神社」
「あ、そっか」
時生は鳥居をくぐる直前に足を止めた。一礼するのかと思いきや、上を向いてゆっくりと一歩踏み出した。普通は逆だ。私は一礼してから鳥居をくぐり、石段に座った時生の隣に腰かけた。
地面には雑草はあまりなく、定期的に手入れされていることが窺えた。そのおかげか、閑散としてはいるものの寂れた印象はない。
立ち並んでいる木々が風を遮ってくれているのか、もう夕方なのに不思議と暖かかった。
「なんでだろう。ちょっと懐かしい感じがする」
「え?」
「もしかしたら私が忘れてるだけで来たことあったのかも。子供の頃とか。昔住んでた家から近いし」
「ああ……そっか」
「ここ、なんとなく落ち着く気がする。よくこんな小さな神社知ってるね」
「うん」
「もしかして、時生の秘密基地?」
「そんな感じかも」
「そうなんだ。なにしてるの?」
「ぼーっとしてる」
「暇じゃない?」
「別に。ぼーっとしてるの好きだし」
うん、好きそう。なんとなく。
こんなところでぼうっとしているなんて、私と同じように、もしかしたらそれ以上に、教室という空間を息苦しく感じているのかもしれない。
やっぱり傷ついてるんだ。
胸がずきりと痛んだ。
「落ち着くならたまに来れば」
ちらりと目を向けると、時生はまた空を見上げていた。
だから私もそうした。
「だけど時生の場所なんでしょ。私がいたら邪魔になるじゃん」
「邪魔ならこんなこと言わない。ここなら俺と一緒にいるとこ誰かに見られる心配もないんじゃない」
かあっと顔が熱くなる。