カースト上位のグループに居続けたかった私にとって、『陰キャ』の彼氏がいるなんて知られるわけにはいかなかった。
私こそ蓮の優しさと愛情に甘えていたはずだ。
「蓮に別れを告げたのは、蓮のことが嫌になったとか、そういうことじゃないんだよ。死にたいなんてどうしても蓮に言えなくて、でも、どうしても生きていくのが辛くて……蓮に十字架を背負わせたくなかったから、先に私から離れてほしかったんだよ」
蓮のことを誰にも言わなかったのに、恥ずかしいとさえ思っていたのに、なぜそれでもぎりぎりまで別れられなかったのか。
理由なんてきっとひとつしかない。
手紙に書いてあった通り、蓮のことが大好きだったからだ。
大好きだから、私から離れてほしかった。罪の意識に苛まれることなく、これからも前を向いて生きていてほしかった。
「私にとって、蓮の存在は大きな救いだった。前の世界の私にとってもきっと……ううん、絶対そうだったよ。蓮に追い詰められてなんかない。だって、じゃなきゃそんな手紙書いたりしない。全部断言できるよ。だって、私は私なんでしょ?」
お母さん、咲葵、そして蓮。
なぜその三人に手紙を書いたのか、今の私ならよくわかる。
大切な人は誰だろうと考えたとき、真っ先に浮かんでいた三人だ。
「蓮がいた世界の私は死んじゃったかもしれないけど、今の私は生きてる。蓮のおかげで前を向けたんだよ」
未来なんて見えない。明日のことさえわからない。
蓮に出会っていなくても、もしかしたら生きていたかもしれない。
だけど蓮に出会っていなかったら、今の私はきっといない。
「それに、蓮のおかげで気づけたこと、たくさんたくさんあるんだよ」
手の甲で涙を拭い、深呼吸をして、再び蓮を見た。
「やっぱりね、世の中には強者と弱者がいるっていう考えは変わらないんだ。卑屈になってるわけじゃなくて……どうしてもそれが事実で、逃れようのない現実なんだと思う」
蓮は否定しなかった。ただ涙を流して俯いたままだった。
私よりも先に大人になった蓮は、その現実を痛いほど目の当たりにしてきただろう。
「ただ、強者だからって強いわけじゃないし、弱者だからって弱いわけじゃないんだよね。私がなりたかったのは強者じゃなくて、強い人間だったんだって、気づいたの」