私のことを「弱くない」と言ってくれた。だけど「強い」とは一度も言わなかった。「強くなりたい」と言ったときも、蓮は答えなかった。

「……美桜の言う通りだよ。それに、俺はずっとそばにいられるわけじゃない。だからそんな言葉はただの気休めにしかならないと思った。生きていてほしいからこそ、そんな無責任なことは言えなかった。……けど他に言うべき言葉が見つかったわけじゃなかった。ずっとずっと、なんて言えばいいかわからないままだった。それでも思いつく限りの言葉を伝えてきたけど、正解だったのか全然わからないんだ。そんな自信は全くない。的外れなことばっかり言ってたかもしれない。だけど、今思ってることを、自分の言葉でちゃんと伝えたかった」

「的外れなんかじゃない。蓮がくれた言葉は、全部私に必要な言葉だった。私はその言葉にたくさん救われた。蓮の気持ち、ちゃんと伝わってたよ」

 蓮の言葉は、私の心にそっと置いてくれているみたいだった。

 私はずっと、蓮の優しさに守られていた。

「……ごめん」

「どうして謝るの?」

「……ごめん、美桜」

「蓮?」

「死が頭を占領してしまうほど辛い思いをしてる人に〝生きろ〟と言っていいのかわからない。なにがあっても生きていてほしいなんて、傍観者のエゴなのかもしれない。なによりも残酷な言葉なのかもしれない。……でも、ごめん。やっぱりこれしか浮かばない。どうしても、生きていてほしかった。ただそれだけだったんだ」

 手を伸ばして、涙を拭う蓮の手に触れた。

 感触はほとんどなかった。

 それでも、蓮のぬくもりがある。

 私を助け出してくれた蓮の手が、確かにここにある。

「美桜、ごめん。気づけなくてごめん」

「……蓮」

「ひどいこと言ってごめん」

「蓮。違う」

「守れなくてごめん」

「違うよ。蓮のせいじゃない」

 死を考えていることを、心のどこかで誰かに気づいてほしかった。助けてと、音にならない声で叫び続けていた。

 だけどそれ以上に、誰にも気づかれたくなかった。

「謝らなくていいんだよ。蓮が気づかなかったわけじゃない。私が必死に隠してただけ。それに私だって蓮のことたくさん傷つけたはずだよ」

 高校に入ってからも蓮と付き合っていることを隠し続けていた理由は、きっと蓮の思っていた通りだ。